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オープン戦レポート

黒田博樹 凱旋登板で貫録のパーフェクト投球

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「どんどんストライクゾーンで勝負して、打者にプレッシャーをかけていった」とオープン戦初登板を振り返った



8年ぶりに背番号15が広島の地で躍動した。昨年末、電撃的に広島復帰を果たした黒田博樹が3月8日、本拠地・マツダ広島でオープン戦初登板。ヤクルト打線につけ入るスキを与えず、4回1/3を一人のランナーも出さないパーフェクト投球。球場に詰めかけた2万2942人の観客に強烈なインパクトを与えた。
写真=前島進、佐藤真一

技術が詰まった1球で見逃し三振


 マツダ広島に集まったファンの大歓声に包まれ、黒田博樹はゆっくりとマウンドに上がった。3月8日、対ヤクルトオープン戦。プレートの一塁側を使い、感覚を確かめるようにゆっくりと投球練習を始める。そして午後0時。プレーボールがかかると、ギアを一気に上げた。

 ノーワインドアップから早いテンポで次々にストライクを投げ込んでヤクルト打線を追い込む。ツーシーム、フォーシーム、カットボール、スライダー、スプリット。全球種をゾーンに的確に操る。4回1/3を投げ、無安打無失点。1人の走者も背負うことはなかった。

「気持ち良く投げられました。結果的に良かったと思います。あとは結果オーライで抑えたところもあった。また次につなげたい。いつものようにいい球もあれば、悪い球もありました。次に向けて、いい球を増やしていければと思います」

 技術が詰まった1球があった。4回。先頭の藤井亮太と対した場面だ。見逃しとファウルで追い込むと、3球目だった。140キロのボールは左打者・藤井の内角ボールゾーンから急激に変化し、真ん中高めに決まった。これがメジャー・リーグで磨いたツーシーム。それも「フロントドア」と呼ばれる内角からストライクゾーンに入れるボールだった。「別に変化しなくてボールになってもいい球ですが、打者からすると難しい球じゃないかな」

 藤井は捕手のミットの位置を二度見するほど驚いていた。これほど大きく変化するツーシームを投げる投手は日本には少ない。右打者も安易に踏み込むことができないだろう。スライダー、カットボールも威力倍増。相手打者にとって、対応は急務となる。

 ヤクルト打線の早打ちもあったとはいえ、4回1/3を投げてわずか39球でまとめた。打者13人のうち、11人に初球ストライク。ボール球は、わずかに9球だった。捕手・會澤翼のサインにも最後の1球まで首は振らず、ムダ球も一切使わない。抜群の制球力で内外だけでなく高低も使って、さらにはカーブも交えて緩急も使った。「ストライクゾーンでどんどん勝負して、打たせて取ることが自分のスタイル。それはある程度できたかなと思います」

 かつての剛球頼みのイメージは薄れ、140キロ台中盤の球を気持ち良くコーナーに投げ分けていた。まったく新しい投手がそこにいた。

抜群のボールのキレでヤクルト打線を手玉に取った



責任を楽しむピッチング


 メジャーより柔らかいマウンド、縫い目の高いボール。ささやかれた不安を一気に吹き飛ばした。足場を気にする仕草も、ボールを見つめる姿もない。「自分の中で、どこをどうするというよりも感覚的なところだと思う。登板間のブルペンで調整してやっていけば、まったく問題ないんじゃないかと思います」と意に介さない。

 さらに、この日の球場入りは1人だけ45分遅らせて午前9時だった。「当然、そうやれば責任が自分にかかるけれど、自分の投球にベストであればそっちの方がいい」

 責任を楽しむかのような快投だった。畝龍実投手コーチも「アップ系はトレーニングルームでやっている。ホームゲームは任せてやらせていきたい」と一任の姿勢を見せている。環境も黒田を後押しする。

 オープン戦にもかかわらず2万2942人が見つめた試合。降板時には、メジャーさながらのスタンディングオベーションで称えられた。ファンの期待も、確信へと変わったはずだ。すさまじい衝撃を残し、黒田は悠々とマウンドを去った。「久しぶりに広島に帰って来て、たくさん声援してもらい、気持ち良くマウンドに上がれた」

 果たして今年、どのようなシーズンが待っているのか。広島にとって24年ぶりとなる悲願の優勝へ向けて――。伝説の扉が開かれたと言っていいだろう。

真っ赤に染まったスタンドから、黒田も力をもらって好投した




PROFILE
くろだ・ひろき●右投右打。185㎝93㎏。1975年2月10日生まれ。大阪府出身。上宮高-専大-広島97年2位-ドジャース08年-ヤンキース12年-広島15年。14年成績:32試合登板、11勝9敗0S、防御率3.71

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