3月22日のソフトバンク戦(マツダ広島)でも7回無失点と素晴らしい投球を披露。シーズンに向けて死角はない
3度目のマウンドは7回無失点。わずか92球で最強ホークス打線を手玉
「マウンドでは状況に応じたピッチングをしなければならない。いい勉強ができればな、と思います」
オープン戦3度目の登板(3月22日、対ソフトバンク=マツダ広島)を前に、
黒田博樹はこう語っていた。40歳の大ベテランが「勉強」の2文字を口にするのは、意外な感じがするが、「今年は集大成の年と考えている。今年ダメならやめる覚悟があります」と言い続けてきた男にとって、久しぶりの日本のマウンドは、一からやり直しの勉強の場なのだろう。この気持ちがないと、覚悟がグラついてしまう。で、中途半端な1シーズンが残ってしまう。これを黒田は最も恐れるのだ。
さて、最強のソフトバンク打線(昨年のチーム打率.280は12球団トップ)相手のピッチングはどうだったろうか? 結論を先に言えば、勉強したのはソフトバンク打線の方ではなかったか。
黒田は7イニングを被安打6の無失点。投球数は92。1イニング平均13球ほど。見事としか言いようがない。広島打線もソフトバンク・
中田賢一に7回まで無得点に抑えられ、黒田に勝ち負けはつかなかったが、ソフトバンクは、いいように手玉に取られた。
黒田は5度も回の先頭打者の出塁を許したが、盗塁を失敗させ、内野ゴロで二封し、バントで送られても後続2人を内野ゴロで併殺を2つ取り、とソフトバンク打線にホームを踏ませない。要所要所でツーシーム、スプリットが冴え、とにかく大きな飛球を打たせない。外野飛球アウトは、ヒットを除けば
内川聖一の2つのみ。内野ゴロは14を数えた。もちろん長打はゼロ。どうにもホームが遠かったソフトバンク打線は「ピッチングとはこういうものか」と勉強したことだろう。
黒田のオープン戦3試合の防御率は1・04という素晴らしさ。「ヤンキースの3年間、ローテーションを守った(これはヤンキース投手陣で黒田のみ)というのはたしかに自信になりました」と言う黒田。
ある人の「メジャーで富士山の山頂まで登ったとすれば、広島ではゆるやかに坂をじっくり下るという感じではないですか」という問いに対して、黒田は「そうかもしれませんねえ」としみじみとした口調で答えた。登山では上り以上に下りが難しいと言われる。黒田はいまその困難な「下山」に挑んでいる。勉強しかないではないか。
この日の球場には3万1255人が詰めかけた。これはオープン戦としては09年の開場以後最多の数字。広島市民球場時代でも、これほど入ったことはないという。「広島革命」が始まった。
写真=小山真司