
昨春からチームNo.1打者の象徴である背番号「8」を背負う
「四番、セカンド、中川君。PL学園高校。背番号8」
神宮球場に場内アナウンスが流れるなか、東洋大の右の主砲・
中川圭太は素振りをしながら打席へ向かう。両脚を大きく開き、一度腰を落とす。胸の前でバットの両端を持って地面と平行にすると、上半身を右へ捻って戻し、打席に入る。このルーティンは小学生の頃から続けているものだ。
「一つひとつの打席で気持ちのスイッチを入れています。体を動かしやすくして『よし、行こう』と」
2年春からチームNo.1打者の証である背番号「8」を背負い、3年春から「四番・二塁」を任されている。中川は控えめな笑顔で言う。「東洋大の四番は打って当たり前。チームを勝たせるのが仕事です」
高校3年時にプロ志望届を提出したが、指名漏れ。「もう一度自分を鍛え直して、プロに行けるチャンスを作りたい」と、東洋大へ進学した。
東洋大・高橋昭雄監督(当時)は入学当初からPL学園出身で東洋大OBの
今岡真訪氏(元
阪神ほか)を引き合いに出して「今岡以上の素材」と将来性を見込み、1年春から指名打者として主軸で起用してきた。1年秋には打率.340、7打点で二部優勝に貢献。駒大との一部二部入れ替え戦では相手エースの
今永昇太(現
DeNA)から2試合で4安打を放つなど一部復帰の立役者となった。
3年春のリーグ戦では打率.353、3本塁打、8打点をマークして12季ぶり17度目のリーグ優勝に貢献。高橋監督が「このチームの打撃は中川を中心に動いている」と言うほど信頼を寄せる打者に成長した。
夏には侍ジャパン大学代表に初めて選ばれた。7月9日、東芝との強化試合でのこと。「五番・一塁」で出場した中川は4回一死一塁の場面でバスターをして左前打を打った。すると、東芝グラウンドのネット裏から見守っていた高橋監督が「東洋の四番がバスターなんかして」とボヤいた。試合後、中川にそのことを伝えると、「高橋監督ならそうおっしゃるでしょうね。東洋では四番にふさわしいスイングをしなければいけませんが、代表ではつなぐことを求められているので」と答えた。
7月の第41回日米大学野球(米国)と8月の第29回ユニバーシアード競技大会(台湾)では全12試合で三番としてスタメン出場。ユニバーシアード競技大会では7試合で22打数11安打、1本塁打、13打点と2大会連続金メダル獲得の原動力となった。
「日の丸を背負ったことで、これからもそれにふさわしいプレーをしないといけない。大学球界を引っ張っていく選手になっていきたい」
今秋は2度目のドラフトを迎える。プロのスカウトは「球をとらえる技術が高い」と、上位指名候補として注目している。中川は「プロへ行きたい気持ちは高校時代よりも今のほうが強い」と言う。
PL学園の野球部は春夏計7度の全国制覇を誇るが、2015年度から新入部員の募集を停止し、16年夏限りで休部となった。中川がPL学園出身として最後のプロ野球選手になる可能性もある。中川は母校の野球部への思いをこう語る。
「いずれは復活してほしいという気持ちはありますね。そのためには自分たちOBがしっかりしないと。自分もPL学園の名を残さないといけないと思っています」
17年夏の侍ジャパン大学代表ではPL学園の先輩である関西国際大・鈴木英之監督がコーチを務めていた。鈴木監督は高校時代に83年夏の全国制覇と84年春夏の全国準Vを経験している。その先輩から「右ヒジの力を抜いて、柔らかく使え」と助言をもらい、バットのヘッドを走らせて打つ打撃に磨きをかけた。
「偉大な先輩なので、一つひとつのアドバイスにグッときました。あらためて『PL』を受け継いでいかないといけないと思いました」
PL戦士の一人として、母校野球部復活のために──。中川はそんな思いを胸にグラウンドに立っている。

3年春には、二塁手としてベストナインを受賞。試合中には、こんなおチャメな表情を見せることも
PERSONAL CHECK
背番号「8」は昨年のチームで四番だった
笹川晃平(現東京ガス)から引き継いだ。笹川から「お前なら『8』をつけても大丈夫だ」と言われ、自信を持ったという。
高校通算 28本塁打 50m走 5.9秒 遠投 100m 打力 5 守備力 4 走力 4 メンタル 5 将来性 5 合計 23 ※各項目(打力、守備力、走力、メンタル、将来性)は5点満点 PROFILE なかがわ・けいた●1996年4月12日生まれ。大阪府出身。180cm75kg。右投右打。尾崎小1年から尾崎ボーイズで野球を始める。尾崎中では泉佐野シニアに所属。3年夏にはAA代表としてU16世界選手権3位。PL学園高では2年秋の大阪大会で準優勝し、近畿大会1回戦敗退。3年夏は大阪大会準優勝。東洋大では1年春から二部リーグ戦に出場。一部に復帰した2年春から3年春までの35試合で打率.287、5本塁打、23打点をマーク。2年秋は指名打者、3年春は二塁手としてベストナインを受賞している。
取材・文=佐伯要 ※ベースボール・マガジン12月号より転載