スポットが当たることはほとんどないが、野球界に欠かせない縁の下の力持ちである“裏方”を紹介する新連載。その第1回目に登場するのは、ヤクルトの元捕手・福川将和さんだ。現役時代、そして引退後とスワローズ一筋。現在務めている打撃投手、その仕事の妙味を語ってもらう。 取材・文=富田庸、写真=川口洋邦、BBM 手伝いから本職に変わって
プロでは捕手として、チーム内のライバルたちと“ポスト古田敦也”の座を争った。だが、現在は打撃投手というユニークな経歴の持ち主だ。打者出身だからこその利点を、現在の仕事に生かしているという。 神宮球場でのナイター時は、早出バッティングが昼12時に始まるので、神宮クラブハウスに出勤するのは11時くらいです。そこで1時間ほど守備をし、メーンの練習に入っていきます。ほかの打撃投手と交代で打撃投手を務め、16時前に練習が終わり、ランチタイムになります。
そして試合が始まるとクラブハウスのモニターで試合をチェック。打撃投手を担当する選手がどんな内容かを確認するのです。試合後、選手から打撃について聞かれることもありますから。試合が21時半に終わると、30〜40分後くらいに球場を出て、帰宅は23時過ぎです。これがおおまかな仕事の流れとなります。
ヤクルトには社会人を経て2002年に入団して捕手としてプレーし、引退したのは12年です。プロとして戦うことに体力的な限界を感じていましたので、球団の戦力外通告に「分かりました」と受け入れました。そこでブルペン捕手の仕事の話をいただいたんです。13年、14年と二軍でブルペン捕手を務めていたのですが、当時は投球練習が終わると、野手の居残り特打で打撃投手の手伝いもしていました。
そうしたら15年のオープン戦の時期に球団から「一軍の打撃投手をやらないか」と言われたんです。自分では分かりませんが、球団の方が(打撃投手に)向いていると感じたのかもしれません。ただ、担当したのがレギュラークラスの4人と、控えクラスの4人。いきなり主力選手を担当するプレッシャーは相当ありましたね。選手には試合前の打撃練習で気持ちよく打ち、試合に入ってもらいたい。選手個々の得意なコースをしっかりと把握し、できる限りそこに投げることを意識しています。
投手経験はありませんが、逆に打者出身ですので、練習からどういう流れで試合に入りたいかという心理を理解しているつもりです。投手というのは「打者を抑えたい」と考える生き物。「打たせる」という行為が難しいのは確かでしょう。そういった部分では、これまで培ってきた自身の“打者目線”を生かせるという利点があるかもしれません。
担当してきた選手の1人に、
川端慎吾がいます。彼とは「ショートゲーム」という、緩いボールを打つ練習を毎日やりました。室内練習場で、5、6メートルの距離から山なりの超スローボールを投げ、それを慎吾がライナーで打ち返すものです。ビジターでも、環境が許す限りは続けていました。そんな努力する姿を見ているだけに、私としても熱がこもります。だから、慎吾が首位打者を獲得した際には、打撃投手1年目でしたけれど、この仕事にやりがいを感じました。今季は故障からの復活を懸けるシーズンですので、しっかりとサポートしていきたいです。
今季でいえば慎吾、坂口(
坂口智隆)、そして廣岡(
廣岡大志)などが中心です。その日の打撃練習で投げたら、やはり打席結果は気になるもの。もちろん、打てたのは選手本人の実力ですが、私の中で仕事の成果を感じる瞬間ですから。
自分との闘いから応援する立場に
自身の現役時代はチームの勝利を目指し、自分との闘いもあった。しかし今は“選手ファースト”の精神が定着している。選手の活躍が、仕事のやりがいに直結する。 坂口と投内連係の練習をし、左太もも裏を痛めてしまいました(苦笑)。彼が4月3日の
広島戦(神宮)で一塁守備時に送球ミス。「練習したい」とのことで投手役を務めたのですが……。ベースに入る際に足をやってしまいました。まあ、全然問題ないです。もともと体を酷使する仕事ですから。折れたり切れたりしていない限り、“痛い”だけなら我慢できます(笑)。
打撃練習では春季キャンプで1日150球くらい、シーズンに入ったら100球ぐらい投げます。もちろん商売道具ですから、肩の張りには気を使います。ただ、トレーナーはあくまで選手優先。私たちは湿布をもらって貼るくらい(笑)。アイシングは自分でもできるので。
例年、主力選手の山田(
山田哲人)、慎吾、中村(
中村悠平)らが1月に愛媛・松山で合同自主トレをやっているので、そこについていっています。選手もそうですが、私たちも1シーズン投げ続ける準備をしなければいけないですから。
自分がやる野球を35歳で終えて、球団の裏方と立場が変わったことで、野球を客観的に見られるようになりました。同時に、選手たちを応援する側に回ったような気がします。スワローズは新体制になり、昨秋から厳しい練習を続けてきました。選手たちが歯を食いしばって努力している姿を見ると、こちらも「頑張れ、頑張れ」という気持ちにもなるんです。練習時間が長くなれば、必然的にわれわれの仕事もきつくなるわけですけれど、チームが強くなるためならとことん付き合いますよ。選手たちの活躍こそが、自分の喜びにもなるわけですから。
スワローズは“ファミリー”と呼ばれるとおり、伝統的にチームワークが良い。昨季のように、悪いときにはみんな一緒に悪くなってしまう傾向もありますが……。でも、今季は青木(
青木宣親)が戻ってきたことで空気が変わりましたし、全員で痛みを分かち合っている分、助け合いの精神も出てきた気がします。だからこそ期待する部分が大きいですし、私もチームの勝利のために精いっぱい貢献したいと思えるのです。
メーンの練習以外で、選手に「手伝って」と言われることに存在価値を感じますし、言われるうちが華だと思っています。とにかく選手に必要とされる存在でありたい。今年で42歳、いつまでになるかは分かりませんが、体力が続く限り、必要される限りは投げ続けたいですね。

現役時代は捕手を務め、2007年には86試合、08年には105試合と、先発マスクの機会を増やした
東京ヤクルトスワローズ □打撃投手 □41歳/勤続6年
<主な職務内容> ◎練習時の打撃投手
◎守備練習のサポート
神宮(ナイター時)での1日スケジュール 11:00 神宮球場に出勤
12:00 早出練習(外野球拾い)
14:00 全体練習、打撃練習に登板
16:00 ランチ
18:00 試合開始
クラブハウスで試合チェック
21:30 試合終了
23:00 帰宅
PROFILE ふくかわ・まさかず●1976年12月29日生まれ。大阪府出身。大体大浪商高、東農大生産学部(現東農大北海道オホーツク)、三菱自動車岡崎を経て、2002年ドラフト5位でヤクルト入団。12年限りで現役引退。現役時代の通算成績は305試合に出場して136安打、19本塁打、86打点、打率.212。13年にブルペン捕手となり、15年3月から打撃投手を務める。