他を圧倒する成績を残せたのは身体能力が優れていたからだけではない。“野球頭”が冴えていたことも大きな要因だ。2019シーズンの主役。至高の男が持つ、極上の思考力を紹介していこう。 日本ハム・有原航平 謙虚に、相手を見下ろしながら
春先に
有原航平はマウンド上での心持ちを明かしたことがある。「昨年より冷静に、じっくり時間をおいて相手を見て投げられている」。自分の世界に引き込み、圧倒的な威力のボールで打者を打ち取る──。いい意味で相手を見下ろしながら、されど傲慢にはならず、謙虚にコースを狙う。試合の流れ、自身の調子も頭に加味しながら捕手のサインに納得して1球、1球を投じた先に最多勝のタイトルが待っていた。
昨年までは独りよがりな投球も散見した。思いどおりにならない展開で心を乱して結果も伴わなかった。おそらく実力の最高値は日本人投手でも屈指。結果に結びつけられない理由の1つが精神面だったとするならば、以前の姿から脱皮した剛腕に生まれ変わった。今季引退した
田中賢介や同学年の
西川遥輝らポテンシャルの高さを認める周囲の声も真摯に受け止めた。打者目線の思考は投球の幅を広げた。間違えないポイントを知り、成功体験を重ねて自信を積み上げた結果が花開いた。
ツーシームという大きな武器を手に入れたのも、飛躍の大きな要因となった。右打者を不得意としていた理由は、内角を突く球種がなかったから。カットボールの名手は左打者の内角を突いて抑えてきた。左右で同じ攻め方ができることで配球に偏りもなくなった。真っすぐを軸に右打者にはツーシームとフォーク、左打者にはカットボールとチェンジアップ。カーブ、スライダーも交えながら、余裕のある心をベースに最良の選択をする。進化した投球術が有原をワンランク上に押し上げた。
オリックス・山本由伸 圧巻の数字をたたき出した“準備”
自信はあった。昨季、セットアッパーとして32ホールドを挙げた右腕が先発再転向を志願。最速156キロの球威は誰もが認める一方「長いイニングでは……」と周囲の不安の声が挙がる中「長いイニングを投げるための準備はしています」と春季キャンプで口にした。
“準備”は1つではない。救援登板時に投じなかった110キロ台のカーブを再び投げ始めて緩急を駆使。さらに
シュートを習得し、カットボール、スライダー、フォークと全方向への変化球を手にした。「前の打席でこっち(スライダー方向)を意識させておけば、次の打席はこっち(シュート方向)が生きる。その逆もあるし、長いイニングを投げるためには球種を増やす必要があった」。
長いシーズンを考えれば当然、対戦回数はさらに増える。だからこそ「対戦するたびに違う自分になるイメージでいたいんです」。無走者時のノーワインドアップで“クイック”を交えるのも“違う自分”の1つ。試合中も「打者の見え方も変わるはず」と投球プレートの踏む位置を変えた。ただ、最優先はボールの威力だ。フォーク、カットボール、スライダーなどの球種は、直球の握りを微妙に変化させてのもの。
「曲げようと思うときほど曲がらず“半速球”になりがち。だったら、思い切り腕を振って、曲がらなくても威力あるボールがいけばいい」
剛と柔を携えた結果、規定投球回をクリアし、12球団で唯一の防御率1点台をマーク。弱冠21歳の右腕は、圧巻の数字をたたき出し、タイトルを手にした。