メジャーへと海を渡った筒香嘉智の穴を埋める後継者候補として名前が挙がる大型内野手だ。昨年ドラフト2位でベイスターズに入団すると才能の片りんをのぞかせた。2年目の今季はチーム内の競争を勝ち抜き、レギュラー奪取を目論む。ブレーク必至の若き才能は、春季キャンプで泥にまみれていた。 取材・構成=滝川和臣 写真=井田新輔 ホームランは狙わない自分の形で振ることを重視
DeNAのチーム付広報に昨年まで巨人で打撃投手を務めた藤井秀悟(元ヤクルトほか)が加わった。今回インタビューをアテンドしてくれた新米広報は「伊藤裕季也、これから特守なんで、ヘトヘトになる前にインタビューやりましょう」と気を遣っていただいたが、キャンプ中は練習が最優先。丁重に申し出を断り、特守後の取材にしていただいた。みっちり30分間、永池恭男コーチのノックによる特守を終えた伊藤裕は、疲労の色も見せずに笑顔でインタビューの席についてくれた。 ──特守は疲れましたか?
伊藤裕 大丈夫です。練習がきつい時代は終わりました(笑)。
──顔がスリムになって精悍(せいかん)な印象です。
伊藤裕 少し痩せました。アゴ周りが昨年の写真と比べると違うかもしれませんね。
──意識的に体重を落とした。
伊藤裕 今年は二塁をやりたいと思っているので、動けないと守れません。守備のことを考えて体重を落としました。とは言っても、オフの間に減ったのは2キロくらい。1年前と比べたら6〜7キロですね。
──昨年11、12月に行われた台湾のアジア・ウインター・リーグではいい経験ができたようですね。
伊藤裕 打撃では満足いく部分と、満足できない部分がありました。凡打の内容が悪く、いい打ち方や収穫のある打ち取られ方が少なかったです。三振も多くて、毎打席同じような失敗を繰り返したのが納得できなかった。でも、ヒットのときはシーズン中よりいい形で打つことができた。そこがよかったと思う点です。自分の形で振ることができました。
──ダメなときは崩されての三振だったと。
伊藤裕 バットの届かないコースを振ってしまったり、目線が変わってしまったりだとか。そうした部分はまだまだだと感じさせられました。
──自分の形で振ることを重視する。
伊藤裕 はい。誰もがホームランを打ちたいと思って打席に入りますが、欲を出し過ぎると崩れやすくなってしまいます。理想とするフォームでしっかりと振ることです。
──打撃フォームも見直したそうですね。
伊藤裕 僕はホームランや長打を求められる打者です。その期待に何とか応えようと、昨年まではなんでもかんでも引っ張りにかかろうとしていました。欲を出して、必要以上に力が入ってしまっていました。それを修正したいと思いフォームを変えたんです。一番のポイントは、打ちにいく際に、左足と体が開かないこと。でも左足を「閉じよう、閉じよう」と我慢すれば余計に開いてしまいます。ならば最初から開いて構えておいて、始動のときに左足を閉じるように変えました。ですから、構えをオープン気味にしています。
──新フォームはハマってますか。
伊藤裕 レフトに引っ張っても体の開きが少なくなっているので、狙いどおりに向かっているとは思います。ほかにも台湾では巨人の村田(
村田修一)コーチからもバランスの取り方や、インパクトの瞬間についていろいろアドバイスをいただきました。
──フォームの修正で伊藤裕選手の魅力である長打力が消えてしまうことはないですか。
伊藤裕 消えるわけではないです。ホームランを狙わなくてもしっかり打てるというのが今のテーマであり、目指していく形ですね。自分の形で振れば自然とホームランになるという打ち方です。
衝撃のスタメンデビューも突き付けられた実力不足
鮮烈なインパクトを残した。昨年8月9日の中日戦(横浜)、プロ2打席目で初安打となる二塁打を放つと、「五番・セカンド」で初先発に抜てきされた翌日の同カードでは、プロ初アーチを含む2打席連続本塁打の離れ技でチームを逆転勝ちに導いた。しかしその後、伊藤裕の打撃は下降線をたどった。 ──昨季は、21試合で打率.288、本塁打4。どう振り返りますか。
伊藤裕 一軍に昇格してすぐは、わずかですが結果が残せた。でも、試合数を重ねて、相手に自分のことを知られていくと変化球が増えたり、攻められ方が変わった。それに対応できず、打てなくなった。あの時点で自分の限界を感じました。技術もなかったし、考える力もなかった。1年目に関しては納得できる点は少なかったです。まだまだだな、と感じた数字でした。
──「まだまだ」と思わされた投手や対戦はありましたか。
伊藤裕 中日でリリーフをやっていた(ジョエリー)
ロドリゲス(現レンジャーズ)です。初スタメンで2本目の本塁打を打った相手ですが、翌日の試合で再び対戦した際は豹変(ひょうへん)していました。変化球も含めて来るボールが全然違っていて、「昨日は完全になめられていただけだな」と感じました。初球がチェンジアップ、2球目、3球目がスライダーでしたが、バットにボールがかすりもしなかった。一流のセットアッパーが気持ちを入れて投げてきたボールがこれか……と力不足を突き付けられました。でも、今年はそうした投手のボールも打っていかないと生き残れません。
──生き残るために、キャンプで課題としていることは。
伊藤裕 まずは、守備力の向上がテーマとなります。スタメンでレギュラー出場するために、何が必要かと言えば、僕の場合は守備です。そのうえで打撃がある。打撃はフォームを固めるであるとか、基礎的なことを徹底していますが、キャンプ1日のトータルで見れば、守備に時間を割いています。
──二塁の守備は、
中井大介選手、
柴田竜拓選手、
ソト選手も守る激戦区です。
伊藤裕 そうなりますが、まあ、ソトには外野に回ってもらって(笑)。僕が打撃でしっかりと結果を残すことができれば、去年もそうでしたが、そうした起用になると思います。もちろん柴田さん、中井さんはライバルです。でも、僕にはソト、佐野(
佐野恵太)さんなど、自分と似たようなスラッガータイプの外野手の方もライバルかなと思っています。僕がしっかりバットでアピールできれば、ソトが外野に回って、僕が二塁で出場するチャンスは増えると思います。必死で競っていきたいです。
──レギュラーをつかむための武器は打撃ですか。
伊藤裕 やっぱり、そこかなと思います。打撃、長打力を生かしていきたいです。

守備を重視しているとはいえ、キャンプではかなりの量を振り込んでいる。力強い打撃が伊藤裕の最大の魅力だ
──ホームランは狙わない。
伊藤裕 状況によっては狙う場面もあるのかもしれませんが、自分のスイングをすることを第一に考えたいです。
──1年目は、変化球を捨てるなど、割り切った打席もあったと思いますが、2年目はいかがですか。
伊藤裕 昨年のロドリゲスのような本当にレベルの高い投手には、ある程度の割り切りは必要かもしれませんが、割り切らなくても打てる投手を増やしていかないと。そうした技術を磨くことがオフシーズンの課題ですね。シーズンに入ってしまうと大きな技術的な進歩はなかなか難しいと思うので、そのときは臨機応変に対応していくのでしょうけど。
同世代の刺激を糧にレギュラー奪取を誓う
筒香のメジャー移籍でDeNAは転換点を迎えている。若いチームにはより一層、勢いのある新しい力の台頭が期待されている。新キャプテンに25歳の佐野恵太が指名されたのもその表れであるが、そうした状況の中で伊藤裕は、チーム内でどのように存在感を示していくのか。 ──チームのスローガン『NEW GENERATION IS HERE.を見て何を感じましたか。
伊藤裕 佐野さんがキャプテンになられて、さらにスローガンには『新しい世代』という言葉が入っている。先輩の方には失礼に聞こえたら申し訳ないのですが、世代交代じゃないですけど、どんどん僕らのような若い選手が積極的にいくチームであることを意識しています。
──同級生では同じ立正大の
楽天・
小郷裕哉選手をはじめ、チームメートの
上茶谷大河選手らが1年目から戦力となっています。
伊藤裕 野手では楽天の辰己(
辰己涼介)、
オリックスの中川(
中川圭太)も大学は違いますが、同学年で仲がいいんです。昨年はそうした仲間たちが一軍の主力としてプレーするのを見て、自分は「何をやっているんだ」と置いていかれてる感がすごくて……。僕が二軍にいるときに小郷は一軍でプレーしていて、中川は交流戦で首位打者。焦ってはダメなんですけど、焦らないといけない立場にいるなと思っていました。投手では
甲斐野央(
ソフトバンク)がプレミア12ですごいボールを投げていた。
──負けていられないですね。
伊藤裕 ああいうボールを打っていかないと。
──
ラミレス監督は、伊藤裕選手にとても期待しています。
伊藤裕 それは十分に感じてプレーしています。でも、ボーっとしていたらどんどん時間が過ぎていってしまいます。やれることを毎日、全力でやっていかないとダメですね。
──では、最後に今年の目標をお願いします。
伊藤裕 昨年は2ケタ本塁打を目標に掲げていましたが、同級生の活躍を見て、もっと上にいかないと、と思っています。今年は具体的な数字は決めずに、1本でも多く、ヒットとホームランを重ねることを目指したい。1日1日ベストを尽くしたいです。

一軍で試合に出るためにカギとなるのが内野守備。二塁、三塁でノックを受ける
2020年の“一文字” 『己』
「周囲に流されることなく、自分の信念を貫くという思いから『己』(おのれ)を選びました。迷いなく、やりたいようにやる。その結果の失敗なら納得することができます。この一文字とともに、今季はプレーしたいです」
伊藤裕季也の基本DATA
ポジション:内野手/二塁、三塁
19年成績:21試合52打数15安打4本塁打7打点0盗塁、打率.288
19年OPS:.929
20年の期待:内野レギュラー奪取
PROFILE いとう・ゆきや●1996年8月30日生まれ。三重県出身。182cm93kg。右投右打。内野手。日大三高―立正大―DeNA19(2)=2年目