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廣岡達朗連載「やれ」と言える信念

廣岡達朗コラム「チャーリー・マニエルの『イエスサー』」

 


 シーズン序盤を見る限り、少なくともセ・リーグは「野球」をやっていない。外野手はなぜ山なりのボールを内野手に返球するのか。矢のような球を投げればいいではないか。そこで必要性があれば内野手はカットするのであって、中継を前提にしたボールを返していたら外野手の肩が弱くなるのは当然だ。その中で、広島鈴木誠也は全力で返球する。その点は褒めてやっていい。ここ数年の実績も認めるべきものがある。ただし、勘違いしたような言動があれば首脳陣は遠慮せずに注意すべきだ。なぜか。プロの姿勢はすべてアマチュアがマネをするからだ。

 阪神は開幕カードで巨人に3タテを食らうなど序盤で不調が続いた。責任は矢野燿大監督にある。阪神には、どちらかというと悪い選手はいない。したがって矢野監督は、選手を怒るより、選手に暗示をかけて希望を持たせるためにコーチを怒鳴りつけるべきだ。ミスをした選手はどこかで負い目を感じているから、自分が失敗したのにコーチが怒られていると思うと、そこで物を考える、その想像力を喚起させることが大事なのだ。

 阪神に関してはもう一つ、昨年まで四番を張っていた大山悠輔をなぜ代打でしか使わないのか、と開幕当初は思っていた。外国人と競わせた上で使う腹かもしれない。だが、それは違う。外国人は、本質的に金を稼ぎに日本に来ている。だから監督は「文句があるのならメジャー・リーガーになれ。お前を獲得したのは、このチームが勝つことを目的としたものだ。そこを理解してくれたらうれしい。3割を打って金を儲ければそれでいいという外国人は要らない」と言うべきだ。そうすると外国人というのは、この監督はこういう考え方をしているのかと納得して、初めてイエスサーと従うのだ。

 私がヤクルトの監督時代、マニエルが守備を疎かにしていたので試合終盤に代えた。アメリカでの途中交代は欠陥商品の証明のようなもの。だから怒る。しかし、同情していたら勝てない。そこで私は予め球審に交代を告げて既成事実を作った。そうすれば、怒ろうが喚こうが退かざるを得ない。試合後にマニエルを呼んで「失礼なことをした」と詫びた。彼が今後の起用法を尋ねてきたため、私は「また怒らせてはいけないから今後はいっさい使わない」と断言した。すると、マニエルは「使ってもらわないと仕事にならない」と泣きついた。「ならば守備をうまくなれ」と言うと、返ってきたのは「イエスサー」だった。多民族国家であるアメリカ人はルールによって規制される。つまり、ルールに弱いのだ。

 そんな外国人にははっきりと主張しないとバカにされてしまう。海外に出れば日本人というのは差別される。それはイチロー松井秀喜など「外国人」としての孤独を味わった人間なら痛感している。日本という井の中の蛙でふんぞりかえっているような人間には、一生かかっても外国人のメンタリティーは理解できない。

 私が「世界を回れば各国の空気の違いを知ることができる、それがひいては指導者になったときのかけがえのない財産になる」と口を酸っぱくして言うのは、そういうことなのだ。

 外国人を何人も抱える矢野監督が今回書いたようなことを毅然として言えるかどうか、それによって阪神の今後は決まってくる。

PROFILE
廣岡達朗/ひろおか・たつろう●1932年2月9日生まれ。広島県出身。呉三津田高、早大を経て54年に巨人入団。大型遊撃手として新人王に輝くなど活躍。66年に引退。広島、ヤクルトのコーチを経て76年シーズン途中にヤクルト監督に就任。78年、球団初のリーグ制覇、日本一に導く。82年の西武監督就任1年目から2年連続日本一。4年間で3度優勝という偉業を残し85年限りで退任。92年野球殿堂入り。
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