球界の誰もが認める圧倒的な成績を残した男たち。彼らがその域に達したのは、誰にもマネできない技術があったからだ。2020年の主役を張ったスペシャリストたちの“技”とは――。 大野雄大 沢村賞左腕の“第3の武器”
「使っていかなあかん球」 外角へ投じたスライダーに
坂本勇人のバットはピクリとも動かなかった。8月7日の
巨人戦(ナゴヤドーム)。6回二死二塁の踏ん張りどころだった。「いい球でしたね。ここぞのときに取っておきました」。外からストライクゾーンに入れる「バックドア」で意識する同い年を見逃し三振に仕留めた左腕は、してやったりの表情を浮かべた。
大野雄大といえば、最速152キロの角度ある直球と右打者の外角に落ちるツーシーム(フォークと投げ分けているが、ここでは統一)。特に後者には「腕の振りを緩めても、どんな形でも投げられる」と絶対の自信を持っている。球速帯も130〜141キロと自由自在。3ボールから投げたり、左打者の内角を突いたり、使い方も多岐にわたる。
それでもこの2球種のみで抑えるのはさすがに難しい。そこでスライダー。「去年はスライダーを増やしたから打者が的を絞りきれなくなった」。初タイトルとなる最優秀防御率に輝き、2018年の0勝から見事に復活した昨季を支えたのが、この3つ目の球種だった。
ところが、今季は少し勝手が違った。開幕前の紅白戦で
アルモンテに、練習試合でも
DeNAの
オースティンに被弾。いずれも内角へのスライダーをとらえられた。「自信をなくしかけていた」。おのずと投げる比率は下がっていった。
開幕後、そんな心を見透かしたように
伊東勤ヘッドコーチからこう言われた。
「スライダーの割合を増やしてみ。何回も対戦している打者は真っすぐとツーシームを待っている。打たれた? そりゃ外国人は打つよ。知らんヤツは力なんやから」
対戦の少ない外国人打者に打たれたからと言って、配球から消さないようにとの助言に「使っていかなあかん球やな」と納得した。
3試合目の登板となった7月3日の巨人戦(東京ドーム)は
菅野智之に投げ負けたものの、7イニングを2失点。「負けたけど形が見えた」。自信を取り戻した。
「真っすぐでガンガン押せた」。そんな感覚に反して、直球の割合は3試合目で最も少ない49.6%。逆にスライダーの比率は25.2%に上がっていた。特に初球は31%。最初に見せることで打者に意識付けをさせた分、内角への直球がより生きた。
最後までスライダーの感覚は昨季ほどには戻らなかった。148奪三振の内訳は直球が66で、ツーシームが78。決め球としては使えなかった。被打率も直球の.190、ツーシームの.182に比べ、スライダーは.395。それでも我慢して使い続けたからこそ、武器の2球種が生きたとも言える。
目指すのは少ない球種でも抑えられる投手。「球種が多彩じゃなくてもすべての球が良ければ抑えられるのを証明したのが・・・
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