練習の虫
大丈夫ですか? 何が? コロナですよ、コロナ。東京はものすごい数の感染者じゃないですか。あなたの周りにもたくさんいるでしょ。え、自分だけは絶対にかからない? 相変わらず、不思議な自信を持っていますね(苦笑)。……でも、こんな話、何回もしていますけど、なんだか「コロナ大丈夫ですか」が「きょうはいい天気ですね」と同じくらいのあいさつになってる気がします。ほんと困ったものです。
何回か前の昔話の続きをしましょう。きょうは
ヤクルトの若松(若松勉)の話です。たくさんヒットを打って、首位打者も2回くらい獲った大打者です(1972、77年)。年齢は僕より5つくらい下だと思うけど、僕が初めて……で、唯一(笑)全試合出場した昭和46年(71年)からやってる(入団した)選手なので、まあ、同年代としておきましょう。
僕とちょっと似た感じで、小柄でふっくらした選手でしたが、体力、気力があって、バッテリーとして面白い戦いができたバッターの1人だと思っています。イメージとしては、何となく掛布(
掛布雅之。元
阪神)とだぶるんですよね。2人とも振りの鋭い左打者で、よく練習してましたから。
話がいきなりそれますが、掛布の練習で思い出すのは、前も話したけど、試合前のノックです。新人のとき、同期の佐野(
佐野仙好)と2人で、ビジターだと40分、50分とずっと安藤(
安藤統夫コーチ)のノックを受けていた。1年間ずっとですよ。もちろん、打つこともやってましたが、試合にも出るのに、守備をずっと汗まみれ泥まみれでやっていることがすごいし、ちょっと感動して見てました。
若松も僕らが神宮球場に行くと、いつもずっとバットを振っていました。当時の名物練習みたいな感じだったんですが、大コーチとして有名だった
中西太先輩とマンツーマンで、三塁側のネット前、同じところでいつもやっていました。僕も中西さんにあいさつに行ったあと、暇なときはずっと見学してました。
中西さんがまたいろんなトスをするんですよ。腕の振りも小さく速い振りだったり、ゆったりしていて突然速くしたり、コースも普通の球があればインコースの体に当たりそうな強い球を投げたりと、1球1球変えてくる。当時、そんなことをするコーチは誰もおらんかったし、中西さんの独特な方法でした。いつも時間のある限りやってましたね。
中西さんには少し因縁があって、僕がもう少し若いころ、中西さんが西鉄の(兼任)監督をやっているときです。オープン戦になると必ずあいさつに行っていたんですが、あるとき、「ダンプ、球団には言ってあるから、話が来たら西鉄に来いよ」と言われた。トレードですね。阪神じゃブルペンが多かったんで、おお、これで試合に出られるかと思ったんですが、結局、話はなく、未遂でした。あのときの監督は藤本(藤本定義)さんかな。使わないのに結構、僕のことを評価していた……ような気がする監督さんでした(笑)。
素晴らしい打者
大洋に移籍してからはエースの平松(
平松政次)と若松の対戦が僕も捕手をしながらすごく楽しみでした。
あれは神宮球場での試合だったけど、当時、若松はインコースに入ってくる右投手のスライダーが少し苦手で、最後はいつもそれで攻めて成功していたんですよ。あのときも、2-1(2ストライク1ボール)までは何となくいったんですが、そのあとインコースにスライダーを投げたらファウルにされた。次は別のサインを出したんですが、平松が気合いが入りまくった顔でブンブンとクビを振って、インスラを投げたがった。仕方ないから投げさせたらまたファウルです。カットするわけじゃなく、思い切りビュンと振ってのファウルです。こうなると、こっちもなんか乗ってきて、そのままずっとインスラのサインで投げさせ、若松もフルスイングしてファウルが5、6球続きました。
それで何球目だったかな。最後、インスラをライトに打たれたんです。ヒット? いや、ホームランです。ライトスタンドにきれいに打たれました。打たれはしたけど、何だかすっきりしました。いい勝負できたなって。平松も「よく打ったな」とやっぱりニコニコして言ってましたよ。プロの世界は、時々、そういう勝っても負けてもよかったなと感動できる対決があります。お互い力を出し切ったというかね。
若松とは引退してからのマスターズ・リーグでも一緒だったんで、そのときの対決の話や、あのティーバッティングについてもいろいろ聞きました。中西さんにいろいろな球を投げてもらって打っていた理由ですが、予測していれば、大きな動きでタイミングを合わすことができますが、予期しない球に対しては、一瞬の反応じゃなきゃタイミングが間に合わないわけですよね。それこそピクッという瞬間的な反応で、小さく速く体を捻って打っていくことの習慣づけと言ってました。これをずっとやっていると、反応で打てるようになるそうです。
敵ながら素晴らしいバッターでしたし、あれは素晴らしいホームランでした。
ダンプノート#05 低目好きの打者の攻め

※2〜4はストレート、1はスライダー。5はフォーク 捕手からの視点
低目の変化球にうまく対応するバッターは高めの速球に振り遅れる人が多い。まずは1球目、手を出さない外角低めのスライダーでストライクを取っておき、次はインハイぎりぎりに3球くらい。1球くらいはストライクになり、3球目あたりは仕方ないと反応しファウルになったとします。そしたら最後はボールになるフォークで空振り三振です。
PROFILE 辻恭彦/つじ・やすひこ●1942年6月18日生まれ。愛知県出身。享栄商高から西濃運輸を経て62年夏阪神入団。75年大洋に移籍し、84年引退。その後、大洋、阪神、横浜のコーチを歴任した。通算974試合、418安打、44本塁打、163打点、打率.209。ダンプの愛称は同姓の捕手・
辻佳紀がいたためでもある。