青学大は早大との決勝で、守りのミスにより4回裏に先制点を許したが、5回表に逆転。3投手のリレーで、2年連続での大学日本一に輝いた
昨年11月20日の悪夢を思い出した。青学大は明治神宮大会決勝(対慶大)で、2つの守りのミスをきっかけにピンチを広げて失点し惜敗(0対2)。大学タイトル4冠(春、秋リーグ戦、全日本大学選手権、明治神宮大会)を目前で逃した。冬場はディフェンスを重点的に鍛え、今春の東都大学リーグで3連覇を達成。連覇がかかった全日本大学選手権は3試合を勝ち上がり、早大との決勝を迎えた。
ところが、4回裏無死一塁からバント処理の悪送球とベースカバーの怠り、さらに悪送球が重なり、先制を許す。主将・佐々木泰(4年・県岐阜商高)は「試合運びとしては最悪」と振り返る拙守だった。さらに無死三塁の窮地は続くも、ここから二番手の左腕・ヴァデルナ・フェルガス(3年・日本航空高)が後続3人を抑え、流れを渡さなかった。
一塁ベンチに戻った主将・佐々木は円陣で言った。「この展開で1失点。まだ試合は序盤。プラスにとらえよう」。同じ轍は踏まなかった。青学大は5回表に2本の適時打で逆転。決勝タイムリーの藤原夏暉(3年・大阪桐蔭高)は、昨年11月の慶大との決勝で痛恨の失策を犯しており、汚名返上となった。ヴァデルナは7回まで投げ、8回からは
鈴木泰成(2年・東海大菅生高)が締めている。
2年連続優勝。昨年は主将・
中島大輔(
楽天)がチームを束ね、
常廣羽也斗(
広島)と
下村海翔(
阪神)の右腕2人がいた。昨年も「二番・三塁」で優勝を経験している主将・佐々木は「今年は拠り所がない。自分たちが引っ張らないといけなかった。格別なうれしさがある」と、2本塁打8打点で打線をけん引し、最高殊勲選手賞を受賞した。神宮の杜を舞った安藤寧則監督は「今年、勝つのは難しかった。こういうゲームを取り切れたのは大きい。幸せです。自慢の後輩です」と感無量の様子だった。
2019年1月から母校を指揮する青学大・安藤監督[左]は、最高殊勲選手賞を受賞し、優勝旗を持つ主将・佐々木と喜びを分かち合った
13残塁。5度にわたり先頭打者を出した早大だったが、好機であと一本出ず、相手のミスによる1点に終わった。8回裏は一死満塁も後続2人が凡退。9年ぶりの日本一を逃した
小宮山悟監督は、青学大との差を語った。
「1点を、何が何でも阻止する。全員に浸透されている。その1点を防ぎにくる『執着心』。このトーナメントには分があったかな、と思います」
早大・小宮山監督は「課題が多く出た試合」と、秋への巻き返しを誓った
青学大は出場7回で6度の優勝(準優勝1度)を誇り、大会通算27勝1敗である。連覇は今回が初で、価値も高まる。強さの秘訣は明確だ。「勝ちたいではなく、負けない」。安藤監督の勝利への執念が、学生に擦り込まれている。だからこそ主将・佐々木に、本当の意味で達成感はない。
「秋のリーグ戦、明治神宮大会まで時間があるので、チームを見つめ直し、強い青学大をつくっていきたい」
タイトル4冠への通過点。佐々木は喜びを噛みしめながらも、表情を引き締め、神宮を引き揚げていった。
取材・文=岡本朋祐 写真=矢野寿明 ■第73回全日本大学野球選手権大会決勝 6月16日 神宮 開始13時4分 終了15時36分
[早]●鹿田、宮城、香西-印出
[青]中西、○ヴァデルナ、鈴木-渡部
▽二塁打 松本、中田、渡部[青]印出[早]
▽審判員 湯本[球]玉置、深沢、秋山[塁]
【表彰選手】 ▼最高殊勲選手賞 佐々木泰(青学大4年・県岐阜商)
▼最優秀投手賞 藤井優矢(東日本国際大4年・角館)
▼首位打者賞 中田達也(青学大3年・星稜) 15打数7安打、打率.467(4強進出以上チームで、規定打席数は試合数×4)
▼敢闘賞 吉納翼(早大4年・東邦)
▼特別賞 石飛智洋(天理大4年・出雲西)
■第73回全日本大学野球選手権大会結果 ※丸数字は出場回数、延長[10回からタイブレーク]、コールド回数
※出場回数の取り扱いは中止の第69回大会を挟む
※第69回大会[2020年]はコロナ禍で中止