3月8日から4日間、東京スポニチ大会が開催され、2025年の社会人野球は本格的にシーズンイン。都市対抗、日本選手権の二大大会での活躍を目指し、各チームは鍛錬の冬を乗り越え、春を迎えている。4月からは都市対抗の一次予選も本格化。南国・沖縄にも熱い想いで日々を過ごすチームがある。 取材・文=小林篤 写真=小林篤、田中慎一郎 TEAM DATA [所在地]沖縄県浦添市
[創部年]1992年
[出場回数]都市対抗 5回 日本選手権 6回

新チームから主将を務める小濱佑斗内野手。2001年生まれの高卒6年目だ
全国舞台で勝つために新主将を据えて始動
好勝負を演じたが、1点が遠かった。昨年7月19日の東京ドーム。沖縄電力は第95回都市対抗野球大会の開幕戦に登場した。出場32チームで最長ブランクとなる10年ぶりの本大会出場に対し、相手は前大会王者・トヨタ自動車。守りは奮起するも、打線は好投手を攻略することができず。両者無得点で迎えた9回裏、サヨナラ打を浴びた。
0勝8敗。これは都市対抗での沖縄県勢の通算成績である。プロ野球発足前の1927年から始まり、まもなく100回大会を迎えようとする『社会人野球の祭典』。数々の勝利が街を元気づけてきたが、こと沖縄県勢は未だ白星を挙げていない。64年に琉球煙草、69年に琉球生命、72年にオール那覇が出場もいずれも完封負け。92年に野球部を創部した沖縄電力は2000年に初出場を果たしたが、09、13、14、24年と挑戦すること5回すべてで初戦敗退。6回出場の日本選手権は勝利を経験済みで、東京ドームでの1勝はチームの目標となっている。
「全国大会で1勝できないと停滞、あるいは後退していると思っている」
悲願の1勝をつかむべく、覚悟を持って2025年シーズンに臨むのは、4月に入社6年目を迎える小濱佑斗内野手(中部商高)だ。昨年は九州地区二次予選で打率.538を記録し都市対抗本大会出場に大きく貢献。九州地区の年間ベストナイン(遊撃手部門)も初受賞した中心選手は、新チームから主将を務めている。33歳のベテラン・田場亮平(前原高)からの主将変更について、就任4年目の平田太陽監督(国際武道大)は意図をこう説明する。
「田場はプレーでも言葉でもチームを引っ張ってくれました。全国で勝つための土台はある程度できてきたので、その先に行くために若さ、勢いが必要と思い、小濱にお願いしました。(小濱は)コミュニケーションも取れるし発言力がある。昨年は実績も残しました。就任の際は『勢いを出してほしい』と伝えました。そこが一番の決め手ですね」

チームを指揮する平田監督[左から四番目]。現役時代は沖縄電力で主将を務めた
主将交代はすんなり決まったわけではない。というのも、昨秋に日本選手権予選に敗れ、チームが新体制を迎えるタイミングで平田監督は日替わりキャプテンを導入した。以前なら選手間で主将を決めていたが、新たな試みだった。「リーダーになれば、『自分が仕切らないといけない』となって、自然に目配りができるようになる。周りを見ようとする意識が大切だと思って」と主将の適性を見るのはもちろんのこと、個々の意識改革も求める時間とした。中堅、ベテランに加えて当時1年目のルーキーも日替わり主将を経験。「いろんな発見があって、やってよかったです」と指揮官は振り返る。
ブランクを再び作らない 予選を勝ち抜く覚悟
都市対抗で勝つという目標達成の前に、突破しなければならない関門がある。それが九州地区二次予選だ。九州地区に与えられた本戦出場枠はわずか2つ。4月の沖縄一次予選を勝ち進んだ先に、今年は6月2日から福岡で二次予選が開催される。同地区には16年から8年連続代表権を獲得したホンダ熊本を筆頭に、昨年第一代表のKMGホールディングス、JR九州や西部ガスが名を連ね、沖縄県内には近年メキメキと力をつける新興勢力のエナジックがいる。
昨年は地元・沖縄で二次予選が開催され、第二代表で東京ドームへの切符をつかんだ沖縄電力。さかのぼれば前々回出場の14年も二次予選は沖縄開催だった。すわなち、15年~23年は他県開催でトーナメントを勝ち上がることができていない。「地元開催だから勝てたと思われるのは、悔しい部分もあるので、どこで戦っても、どこと戦っても代表権を獲れるんだというのは証明したい」と意気込むのは平田監督。本戦出場へのブランクを再び作らないためにも、今年へ懸ける思いは強い。主将の小濱も「代表権獲得に絡んでしっかり勝つ。チームのベースはそこだと思うんです。全国(大会)で勝てる力を持って挑むのがまずは目標です」と言葉に力が入る。
走塁、守備の高い意識がチームの特色だ。攻撃面は少ないチャンスでいかに点を挙げられるか。「極端な話ですが、単打で二塁を狙っていこうと。それぐらいの意識を持っています」(平田監督)。守備では事前の声掛け、カバーリングと凡事徹底で無駄な進塁、失点を防いでいく。「全国大会も踏まえて、もちろん九州もそうですが、県外にはいい投手がたくさんいる。打つことが難しい中で、打てなくても勝てる、負けないチームを目指しています」と指揮官は続ける。
投手陣は「理想は先発が7イニングを投げてくれれば」(平田監督)としながらもベースは継投策。内間敦也(コザ高)を中心に、昨年の都市対抗で先発したサイドハンドの當山昇平(九州共立大)、今年38歳を迎えるベテラン・狩俣穏(沖縄国際大)ら複数投手を擁して戦い抜く。右腕・平典士(沖縄大)、左腕・新垣瑠依(日本文理大)の入社2年目コンビが飛躍すれば、一気に戦力は上積みとなる。

躍進に若手の活躍は不可欠。2年目左腕の新垣瑠依らの台頭にも期待したい
頼もしい存在も加わった。昨年BCL/神奈川に所属し、リーグ最多勝に最多奪三振、投手部門のMVPを受賞した左腕・安里海(日立製作所)が入部。マウンドでの活躍に加え、期待されるのは培った経験と技術の伝授。早速、アドバイスを受けた新垣が「今までの感覚と全然違う」と投球に成長を実感したように好影響が出ている。
新戦力で言えば、選手、マネジャーとしても所属していた伊波翔悟(浦添商高)が投手コーチとしてチームに復帰。内野手出身の平田監督は、「最終的な判断、責任を負うのは監督である私ですが、基本的には任せています」と2009年同期入社でもある伊波に信頼を寄せている。また、昨季限りで現役を退いた金城長靖(八重山商工高)もコーチとして、野手陣の底上げを図っていく。
静岡大会は強豪と対戦 オフの鍛錬の成果を出す
2025年のチームスローガンは『前進 一歩先のステージへ』。昨年は『一体感』をスローガンに10年ぶりの都市対抗出場をつかんだ。一歩先のステージとはもちろん、東京ドームで勝利を挙げることだ。
「昨年よりも前進しない限りは(全国大会での)1勝にはつながってこない。(昨年スローガンの)『一体感』は継続し、全員で前に進んでいこうと。達成して、みんなで喜びを共有したいです」(平田監督)

昨夏の都市対抗本戦、三塁側の応援席は多くの観衆で埋まった[写真=田中慎一郎]
2月、3月のオープン戦を経て、3月22日からは沖縄県内の大学、企業、クラブチームの計10チームで頂点を争う第43回石川逢篤杯(7イニング制)が開幕。3年ぶりの優勝を目指し、23日に琉球大との初戦(2回戦)を控える。4月2日からは日本選手権の出場権もかかるJABA静岡大会に参加。予選は明治安田、日本製鉄東海REX、ヤマハの強豪チームと同ブロックに。オフの鍛錬の成果を上げる絶好の相手が並んだ。そして、同月上旬からは都市対抗沖縄一次予選が開幕。勝ち上がれば関門となる福岡での九州二次予選が待っている。
沖縄・浦添市を背負い、今年も東京ドームに立つために、やる気はみなぎっている。「次また(都市対抗に)出るまでに10年かかるのは嫌。本当に今年が勝負だと思っています。福岡開催で代表権は獲ったことがないので、『やってやろうじゃないか!』という気持ちです」(平田監督)。
2022年には会社の業績悪化で活動を一時休止した。ナインは野球ができる喜びを胸にプレーをする。昨年は地元開催で多くの応援が力となった。恩返しのためにも、まずは2年連続で東京ドームへ。そして、沖縄県勢初となる都市対抗での白星を挙げ、初めての景色を見る。(次号では、沖縄県・うるま市の『エナジック』を掲載します)
【投打のキーマン】内間敦也 新球種に手応えアリ

内間敦也[投手]
プレッシャーに動じぬ強心臓を持ち、最速151キロの直球に変化球は武器のスライダーなど5つを操る。昨年は「入社9年間で調子が一番悪かった」と振り返るが、主戦投手として都市対抗本戦出場に導く粘投を見せた。「10年目の内間は違うぞというところを見せたい」との思いで臨む2025年。昨年途中から体を絞り込み操作性をアップさせると、長いイニングを投げ抜くための投球術にも磨きをかけている。チームメートの當山昇平から学んで新たにシンカーを習得。指揮官からの信頼も厚い右腕が、悲願の都市対抗1勝へ、新たな姿で勝負する。
PROFILE うちま・あつや●1997年11月11日生まれ。沖縄県出身。172cm96kg。右投右打。コザ高-沖縄電力(10年目)。
【投打のキーマン】新城翔太 独立L出身の好選手

新城翔太[外野手]
沖縄工高専から琉球大3年に編入し、卒業後は四国IL/徳島に入団。2020年には四国ILで首位打者(打率.329)、盗塁王(21)に輝いた、異色の経歴を持つ外野手だ。「どこかに特化しているというより、大きな穴のないバランスがいい選手かな」と自己分析するように、攻守走の三拍子がそろう。昨年は九番・右翼で都市対抗デビューを果たしたが、満足はしていない。「1年間通してスタメンで大会に出場し続けた経験がまだないので、まずは安定して出続けること、そうすれば勝手に結果がついてくる」とさらなる飛躍を誓っている。
PROFILE しんじょう・しょうた●1996年10月16日生まれ。沖縄県出身。182cm82kg。右投左打。沖縄工高専-琉球大-四国IL/徳島-沖縄電力(5年目)。