今年でプロ24年目を迎えるヤクルトの石川雅規。今年で45歳となったが、常に進化を追い求める姿勢は変わらない。昨季まで積み上げた白星は186。200勝も大きなモチベーションだ。歩みを止めない“小さな大エース”。ヤクルトを愛するノンフィクションライターの長谷川晶一氏が背番号19に密着する。 屈辱の2回途中ノックアウトを受けて……

5月4日の阪神戦で今季2勝目を挙げた石川
11日前に味わった苦い経験を、自らの手で払拭した。チームが3連敗で迎えた5月4日の対阪神タイガース戦。今季3試合目となる石川雅規の先発マウンドの舞台は甲子園球場となった。4月23日の
広島東洋カープ戦では6失点を喫し、2回途中で屈辱の降板となった。「2試合続けて無様なピッチングを見せるわけにはいかない」、そんな決意を胸にしてのマウンドだった。
「年齢を重ねてあんなピッチングをすると、“やっぱりダメか”とか、“石川もジジイだな”って言われるだろうし、言われて当然だと思います。だから、同じミスは絶対に繰り返さない。そんなことを言わせないためにも結果を出すしかない。そんな思いで、あの日のマウンドに立ちました」
マツダスタジアムでノックアウトされた後、遠征中のチームに帯同はせず、ファームで黙々と調整に励んだ。取り組んだのは「下半身を疲れさせること」だった。その意図を石川が振り返る。
「僕の場合、下半身と上半身との連動がすごく大切なのに、マツダでのピッチングは上半身だけで投げている感覚がありました。映像で振り返ってみても、やっぱりラクをして上体だけで投げていた。石井(
石井弘寿)コーチからのアドバイスもあって、“一度、下半身に刺激を与えよう”という狙いで、下半身を疲れさせるために、投内連携を中心に足を使った練習を意識的に増やしました」
春季キャンプにおいて、石川は「今年は四駆でいきたい」と口にしていた。上半身だけでもなく、下半身だけでもなく、両手、両足を連動させて、「四駆のような」ピッチングフォームを目指したのである。
「でも、あの日のピッチングは決して四駆ではなく、前輪駆動でした。頭ではわかっているのに、どうしても身体はラクをしてしまう。だから、きちんと下を使って、体幹を通じて上も使う。次の登板では、そんな四駆のようなピッチングを意識して臨みました」
こうして迎えたのが、25年シーズン三度目となる5月4日、甲子園での先発マウンドだった。今度こそ、「四駆のピッチングができるのだろうか?」、石川自身にとっても、期待と不安が入り混じった登板となった。
「腕で投げるのではなく、下半身で投げる」
試合前のブルペンで、自身の調子について「あまり力を入れ過ぎるとタイミングが合わないな」と自覚していたという。
「見ている人にはわからないと思うけど、力を入れちゃうと、上半身と下半身のタイミングが合わない感じがしました。前回登板のこともあったので、“腕で投げるのではなく、下半身で投げよう”と、改めて意識しましたね。実際に、この日の試合で思い切り投げたのは2〜3球ぐらいしかなかったです」
ブルペンでの気づきを経て、石川は「力を入れ過ぎずに投げよう」と自らに言い聞かせた。その結果、「初回からリ
ラックスしてマウンドに立つことができた」という。
「意識していたのはバランスでした。力んでしまうとタイミングが悪くなる。だから、とことんリラックスして変化球を投げるような感覚でピュッと投げる。ウイニングショットじゃなくて、カウントの途中でそのボールを投げていました。結果的に、いいバランスで投げることができたと思います」
例えば2回裏、タイガースの七番・
坂本誠志郎に投じた5球目のボールがそれだった。結果的にボールにはなったけれど、自身が目指していた理想の投球となった。初回、2回、3回と毎回ヒットを許した。先制点をもらった直後の4回裏には三番の
森下翔太に一発を喫した。その後、5回も、6回もヒットを許した。毎回安打を喫しながらも、それでも集中力を途切れさせることなく、本来の持ち味であるコーナーを突いた丁寧なピッチングが冴え渡った。
「試合前にイメージしていた通りの理想のピッチングができたと思います。この日は久しぶりに100球を超えました(103球)。7回表に珠(
増田珠)が打席に入ったときは、前回のこともあったので、“絶対に打ってくれるだろう”って思っていました」
本人の言葉にあるように、7回表、石川の代打で出場した増田珠はセンターにタイムリースリーベースを放つ。この一打によってスワローズは2点のリードを奪い、同時に石川に勝利投手の権利がもたらされた。増田は4月9日、石川の今季初勝利の試合でも殊勲の一打を放ち、彼に通算187勝目をプレゼントしている。
「勝手に、“今回もレフト線かな?”と思って見ていたので、右中間に飛んでいった打球を見て、“すげぇ”って思いました。あんなバッティング、なかなかできないですよ。本当に珠さまさまですよ(笑)」
こうして、石川は前回登板の屈辱を自らの左腕で払拭した。そして同時に、プロ通算188勝目を記録したのである。
「毎日胸を張って球場に来て、常に顔を上げて過ごす」

4月23日の広島戦では思うような投球はできなかったが、そこから見事に修正した
「本当に勝ててよかったです。前回の登板翌日、広島から東京に戻る新幹線の中で切り替えたフリをしていたけど、もしも今回も負けていたら、広島戦の負けを引きずって、今でもイライラしていたと思うので(笑)」
甲子園での勝利から数日後に対面したその表情は穏やかだった。2024年は1勝に終わった石川は、早くもシーズン2勝目を記録した。今年はキャンプ、オープン戦からずっと好調をキープしている。改めて、問う。今シーズンは何がいいのか、何が違うのか?
「毎年、毎年、試行錯誤をしているけど、“去年の失敗はしないぞ”という思いで、いろいろ取り組んでいますし、勝利投手として、結果がついて来ているので、このまま進みたいですね」
石川が口にした「去年の失敗」について尋ねる。課題は明白だった。
「僕のピッチングは緩急が重要で、スピード差が大きなポイントになってきます。それでも、去年は緩急を生かし切ることができなかった。その反省から、“カットボールのスピードを上げること”、そして“シンカーの球速を上げること”を、今年の課題としてキャンプから取り組んできました。今のところは、それがうまくいっているので、何とかピッチングになっているのかな?」
ここまでの石川のピッチングを受け、故郷・秋田の大先輩である
落合博満氏、あるいは公私ともに親交の深い
五十嵐亮太氏、元チーム
メイトの
坂口智隆氏が、口々に「中10日ではなく、中6日での登板が見たい」と発言している。このことについて問うと、石川から白い歯がこぼれた。
「みなさんがそう言ってくれるのは本当に嬉しいし、僕自身ももちろんそのつもりで調整しています。自分でも、“中10日でいい”なんて少しも考えていないです。中6日で投げられるようにキャンプからずっと調整しているわけですから。結果を出し続けていれば、いつかはチャンスもめぐってくる。今はそんな考えで進んでいきますよ」
今季すでに2勝を記録し、心身ともに充実している様子が伝わってくる口ぶりだった。インタビューの最後に、石川はこんな言葉を口にした。
「毎日、胸を張って球場に来たいし、常に顔を上げていたい。今はそんな気持ちで過ごしています。次の登板も全力を尽くします」
日々、試行錯誤を繰り返す。前回の反省を今回はきちんと糧にすることができた。今回の成功は、次回にどう影響するのか? 次回登板では、どんなピッチングを見せてくれるのだろうか? 石川の挑戦は続く――。
(第四十一回に続く)
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