1964年には「長嶋ジャイアンツ」という言葉が使われなくなった。これは早実から59年に入団した''王''貞治の成長により、長嶋に匹敵する実力者になってきたということでもある。ここでは両者に30の共通した質問をぶつけ、精神面、人間性を探る。 自身の性格を分析
【1】信念として掲げていることは? 長嶋 「人に頼らず何事も自分で」ということ。
王 やろうと思ったことは、思い切ってやる。力いっぱい、悔いのないように。うまく言えないですが……。
【2】世の中で一番、嫌なことは? 長嶋 嘘をつく人間だね。
王 ヘビ。見ただけでぞっとする。
【3】歴史上、興味深い人物は? 長嶋 ナポレオン。僕の少年時代からの夢であり、希望だったからね。
王 これといってありませんが、タイプとしては、豊臣秀吉と徳川家康を比較すれば、豊臣秀吉と答えます。
【4】理想の人物は? 長嶋 正力松太郎氏。野球を愛し、まだまだ理想を追ってやまないところなんて、感心してしまいますね。
王 ルー・ゲーリッグ。少しでも近づければと思っているんですが……。
【5】自分の性格の長所は? 長嶋 物事に打ち込めるところかな。もう、「ここ一番」となったら何事も忘れて没頭できるんだ。
王 コセコセしないことじゃないかな。物事にわりとこだわらない。人は大陸的と言ったりしますけど、損もしていますよ。
【6】反対に「短所」は? 長嶋 神経質になり過ぎること。性質というのは生まれ持ったものだからしょうがないけど、もっと図太くなってもいいと思うんだ。
王 長所と通じるけど、のんびりし過ぎること。
【7】映画を見て泣くことは? 長嶋 あんまり泣けないね。だって、映画なんてものは物語だよ。フィクションだよ。
王 もちろん、悲しい物語だったりしたら涙は流しますよ。人間感情の自然の原理じゃないかな。
【8】最近読んで面白かった本は? 長嶋 バレーボールの日紡貝塚の、大松博文監督が書いた『おれについてこい!』。スポーツマンの在り方について、すごく勉強になった。物事に打ち込むってことは、大した力を発揮するもんだね。
王 山田風太郎著の忍法ものでしたね。とにかく奇想天外で、退屈しなくてすみましたよ。
【9】お父さん子? お母さん子? 長嶋 お母さん子だ。僕の場合、母に会う機会も少ないから、精神的な支えという胸の奥のものだね。
王 お母さん子ですね。今でも甘えているんで、笑われますよ。
【10】政治家で池田勇人(首相)、河野一郎(国務大臣、東京五輪担当)、佐藤栄作(科学技術庁長官、のち首相)の3人のうち、誰が好きか? 長嶋 三人三様の面白味、偉大さがあるから、一概には言えないね。
王 政治のことは、興味を持って見ていきたいと思います。

背番号3・長嶋の打撃練習をケージ後方から見守る背番号1・王
スター選手の現実
【11】自分への悪口や批判、ゴシップ記事に関してどう思う? 長嶋 事実無根のことを書かれれば、それは怒る。しかし、とやかく言っても始まらないし、気にしないことにしている。
王 場合による。事実に即してよく分析されていたりするとありがたいし、勉強になる。ウソ八百のものを読んだりすると、うまく書くもんだなと感心する(笑)。まあ、あまり気にしないほうです。
【12】巨人・川上哲治監督と、一杯やったことは? 長嶋 ある。そうたびたびではないですが……。
王 あります。1対1じゃないけれど。印象は愉快な方というところですかね。
【13】お酒は好き? 長嶋 シーズン中は滅多に口にしないね。勝利の美酒を味わうためにも……ね。
王 日本酒やウイスキーより、ビールですね。誘われれば行きますよ(笑)。
【14】過去の野球人生の中で、喜びと苦しみの比重は? 長嶋 苦しみの連続だった。苦しみが長ければ長いほど、後に来る楽しみも大きくなるものだ。苦しむ、ということは、人間形成においても貴重なことだよ。
王 苦しいこともあったけれど、忘れる主義だから……。常に現状を満足させることに努めているんです。
【15】現状に満足はしている? 長嶋 スランプに陥るようでは、まだまだダメだね。完全な人間形成はできるものではないが、プロ野球人としてそれに少しでも近づいた状態が希望なんだ。
王 まだ満足できる状態ではないです。恵まれているとは言えるが……。技術面、特にバッティングのそれを、自分のモノにしていきたい。
【16】スランプの抜け出し方は? 長嶋 僕の場合、往々にして精神的なことがバッティングに影響する。あまり気にしないようにと、今年は思っているのだが……。
王 荒川(
荒川博)コーチに納得のいくまで相談をお願いする。あとは荒川コーチが指摘したとおりにやってみるだけです。
【17】試合に敗れた夜は? 長嶋 自分の不振が敗因だったら、やはりムシャクシャしてしまう。そして、不振の原因を探るためにバットスイングをする。
王 忘れてしまう。悔やんでも仕方のないことだから。
【18】相手や観客からのヤジは? 長嶋 僕もベンチでヤジるほうだから、相手の心境も分からないではない。ただ、バッターボックスに入ってしまったら、相手投手のことで集中していて、そこまで気が回らない。
王 入団間もないころは気にしたけれど、最近は別に気になりません。
【19】初対面の人に対してどう思う? 長嶋 善人か悪人か、というより、人間として誰でも信用したい。しかし、そうはできないのがこの世の悲しいところで、目的を知るまでは一応、警戒してしまう。
王 中には悪人もいるだろうけど、素直に受け入れるほうです。

長嶋は練習でも常に全力。試合に向けた最善の準備をしていた
将来の「監督」に言及
【20】人のアドバイスに対しては? 長嶋 アドバイスをしてくれるような人に、悪い人はいない。しかし、僕も自分の生き方を持っている。その生き方の中にプラスになるものであれば、何でも吸収していいだろう。
王 その人の言わんとしていることが真実であり、自分にプラスと思えば、受け入れます。
【21】大衆の前に出ることは? 長嶋 こだわらないが、街の雑踏は好きではない。
王 そんなに意識しない。
【22】公的でない場合、どんな時に外出することが多い? 長嶋 そんなに出ない。身辺の買い物くらいだね。
王 友達のところに遊びに行くときとか、映画を見に行くときくらい。
【23】外出のとき、財布にはいくらくらい? 長嶋 3〜5万だね。
王 2、3万くらいかな。
【24】おしゃれのポイントは? 長嶋 よく分からないけれど、やはりネクタイだろうね。
王 あまりオシャレには関心がないけれど……。まあ、全体のバランスというところでしょうかね。
【25】日本と外国の違いは? 長嶋 外国は古いものを大事にする。日本はその点、少し中途半端じゃないかな。
王 外国では他人のことに干渉しない。自分の生活というものをすごく大切にする。これはいいことだと思いますね。特にわれわれみたいな(スポーツ選手という)人種には、住みいいのではないかな。でも、日本は住み慣れているからいいよ。日本語で通じるしね(笑)。
【26】トラブルに巻き込まれて、殴られたりしたら? 長嶋 そのときの状況によるね。
王 そりゃ、頭にきますよ。大体、そういうトラブルのときなどは、興奮しているときですからね。
【27】子どものころ、ケンカは? 長嶋 印旛沼で泳いでいたころ、よくやったよ。強かったしね。
王 強かった。ガキ大将。でも、人を傷つけるようなケンカは、しなかったけれど……。
【28】幼少時の最大の失敗談は? 長嶋 裏山で竹の切り株で、足を突き刺したことがあったね。木の上から飛び降りたら、その株があったわけだ。それでも泣かないで家に帰ったもんだよ(笑)。
王 鉛筆のキャップに火薬を仕掛けることが流行したことがあってね。授業中に何かの拍子で机の下に落ちたんだけど、不発。で、よせばいいのになんで不発なんだろうと思って、もう一度落としたら爆発(苦笑)。真下が校長室だったので、大目玉。一日中、廊下に立たされましたよ……。
【29】結婚したら、どんな雰囲気の家庭を築きたい? 長嶋 楽しい、家庭本位のものに。
王 いつも笑いのある家庭に。
【30】将来、監督になりたいと思う? 長嶋 勝負師としては魅力があるけれど、大変な商売だからね。
王 監督さんやコーチの皆さんの仕事を見ていると、つくづく大変だと思う。やりたくはないですね。

1964年は東京五輪。2人は高度成長期にスポーツ界で日本を活気づけた
PROFILE ながしま・しげお●1936年2月20日生まれ。千葉県印旛郡臼井町(現・佐倉市)出身。佐倉一高(現・佐倉高)から進学した立大では首位打者2回。当時の東京六大学新記録の通算8本塁打。58年に巨人に入団した1年目、打率.305、29本塁打、92打点で本塁打王、打点王と新人王を受賞。
王貞治との「ON砲」で一時代を築き、65〜73年までのV9を支えた。74年に現役引退。MVP5回、首位打者6回、本塁打王2回、打点王5回。巨人監督は75〜80年、93〜01年の計15年で、リーグ優勝5度(76、77、94、96、00年)、日本一2度(94、00年)。アテネ五輪日本代表監督として03年のアジア予選で出場を決めたが、04年の本戦では病気のため指揮を断念。88年野球殿堂入り。13年に国民栄誉賞、21年には野球界から初の文化勲章を受章した。
おう・さだはる●1940年5月20日生まれ。東京都出身。早実から59年に巨人入団。62年に初の本塁打王。以降、13年連続を含む15回の本塁打王に輝き、
長嶋茂雄とともにV9の立役者。80年限りで現役引退。94年に野球殿堂入り。巨人、ダイエー・
ソフトバンクで監督を歴任し、リーグ優勝4回、日本一2回。06年WBCでは監督で世界一へ導いた。主なタイトルはMVP9回、三冠王2回、首位打者5回、本塁打王15回、打点王13回、通算成績2831試合、打率.301、2786安打、868本塁打、2170打点。