都市対抗は社会人チームにとって、年1度の一大イベント。すべてを東京ドームにかけていると言っていい。負ければ終わりのトーナメントには、多くの人間ドラマが詰まっている。(一部文中敬称略) 取材・文=佐々木亨 
創部から西部ガスの歴史をすべて知る松薗監督は、歴代監督2人のイズムを継ぎながら、自身のカラーも打ち出している[写真=矢野寿明]
執念と一体感の融合
2012年創部の西部ガスにおいて、35歳の松薗史敏(九州共立大)はチーム史上初となる生え抜き監督だ。現役時代の印象がまだ残る青年監督は、指揮官として初めて挑む東京ドームの戦いでも落ち着いていた。日立製作所との1回戦では、九州二次予選でわずか1イニングの登板だった10年目の
村田健(東農大)を迷うことなく先発マウンドに送り、3投手の完封リレー(4対0)で勝利を手にした。松薗監督は言うのだ。
「村田は経験がある。彼のボールの強さと制球力の良さが本大会に向けて上がってきていたので、自信を持って起用しました」
松薗監督は「若さというところで選手とも近い」と言い、信念を貫き通しながら「ともに歩む」監督だ。
「監督2年目でまだまだ若いですし、今やっていることがチームにとって正解なのか、分からないところもありますけど、変えることなく、今年もやっています」
就任1年目の昨年は、都市対抗九州二次予選の第二代表決定戦で敗退。それでも、信じる監督像を追い続け、創部13年目のチームをまとめ上げてきた。今大会は2回戦敗退で8強は逃したが、確かな足跡を残した。
福岡県の自由ケ丘高時代は、投手もこなす遊撃手として活躍した。九州共立大では内野手に専念して大学選手権には4年連続で出場した。西部ガスの1期生となった松薗は、10年間の現役時代に6回の都市対抗出場を誇った。その中で、「監督としての礎となった」と言う創部当初の監督である杉本泰彦氏(東洋大/現海部高監督)、18年から指揮官のバトンを受けた香田誉士史氏(駒大/現駒大監督)の教えを肌で感じた。「6年間在籍された杉本さんは毎日、30分から1時間のミーティングをしてから練習を始めるんです。まずは頭で理解して行動することが大事だ、と。一からいろいろと学びました」と明かす。そして、香田氏からは勝ち方を学んだ。
「杉本さんから教わった一球に対する思いや厳しさは大事ですし、香田さんからは、チームが一つになってみんなで戦う、そして勝利をつかみ取ることが大事だということを学んだ。僕は、二人の良いとこ取りをさせてもらっています」
松薗監督にとって今夏の東京ドームで手にした1勝は、貫く指導が「間違いではなかった」ことを実感するものだった。
「西部ガスの歴史をすべて把握している人間として、創部した思いなども、つないでいかないといけない」
愛される野球部であり続ける――。それは、創部から変わらないチームの理念だ。「強くても、愛されなければ意味がない。愛されても弱くてはダメ。年初めにはいつも選手たちに言い続けている」。青年監督の信念はやはり、ブレることはない。
しんどいときこそ前向きに

就任2年目の大阪ガス・峯岡監督は初戦突破。2回戦でヤマハに敗退も、収穫は多かった[写真=藤井勝治]
今大会出場の32チームで松薗監督は2番目に若い監督だったが、今夏もそれぞれに想いや監督としての色を持ったリーダーたちがいた。大阪ガス・峯岡格監督(早大)もその一人。天理高から早大へ進んだ峯岡は、4年秋に二塁手でベストナインを獲得。1997年に大阪ガスへ入社すると、翌年から都市対抗に7年連続で出場。日本選手権で2年連続準優勝した03、04年には主将としてチームをまとめ上げた。コーチ、社業を経て、24年から監督を務めるのだが、就任1年目の昨年は都市対抗、日本選手権ともに本大会出場を逃して「長い1年」を経験した。今夏は、監督として初めて東京ドームに立った。峯岡監督は言うのだ。
「チームとしては2年間、都市対抗の本大会に出られなかった。しんどいときこそ前向きに、いかに目標を持って成長していけるか。その中で、今年は予選を勝ち抜いた。改めて社員の皆さんからの声掛け、多くのものをいただきました。会社としての一体感を求められていると思うので、野球部としては勝利を手にしながら、皆さんに応援してもらえるようにやっていきたい」
信越クラブとの1回戦でつかんだ1勝は「価値があった」と、素直に喜ぶ峯岡監督の姿が印象的だった。
応援の声に感謝

鷺宮製作所・幡野監督は就任3年目。プロ注目左腕・竹丸和幸[城西大]を擁し、8強進出を遂げた[写真=小河原友信]
準々決勝まで勝ち上がった鷺宮製作所を率いるのは幡野一男監督(創価大)だ。現役時代は投手として都市対抗に6回出場して、長く社業とコーチを経て、23年に監督就任。指揮官として迎えた3年目の今年は、東京スポニチ大会でチームを初優勝に導いて監督賞を手にした。都市対抗東京都二次予選でも投打に安定した勝ち上がりを見せて第一代表。東京ドームでも勝利のタクトを振った。
「発展途上のチーム。今は選手それぞれが良い体験をしている。課題をつぶしていきながら成長して、もう一皮むけたチームを作っていきたい」

三菱自動車岡崎は惜しくも王子との決勝で惜敗。試合後、梶山監督は収穫を語った[写真=矢野寿明]
三菱自動車岡崎の梶山義彦監督(静岡高)は、三菱ふそう川崎でプレーした現役時代は強打の外野手として鳴らした。都市対抗優勝は3回。言うなれば、真夏の祭典で5試合を戦い抜く術を知っている監督だ。三菱自動車岡崎のコーチに就任したのは17年。監督となって今年で4年目を迎えた梶山監督が率いるチームは今夏、24年ぶりに都市対抗決勝(対王子)にたどり着いた。最後は勝ち切れずに1対2で初優勝を逃したが、決勝直後に残した梶山監督の言葉には手応えがにじんでいた。
「昨年の
コールド負け(NTT西日本との1回戦)から、今年は決勝まで進んだことが収穫ですね。これから常勝チームになるためにどうするか。選手たちが一番、悔しがっていると思うので、僕はそこを見ていくだけですね」
今シーズンは春先から変わらずに三塁ベースコーチも務める。コーチャーズボックスから見る東京ドームの景色や耳に飛び込んでくる声援は、梶山監督にとって新鮮だった。
「応援の声がよく聞こえますね。乗って行ける感じがあります」
戦い抜いた今夏の5試合はチームにとって、そして梶山監督にとっても、新たな扉を開くための大きな経験だったことは言うまでもない。