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東海理化が実践する「Design Baseball」とは何か 「設計して勝つ」新たなメソッド

 

第97回都市対抗東海地区二次予選を第3代表で突破した。2023年は1970年の初陣から53年越しで悲願の大会初勝利。2回戦も突破し、8強進出を遂げた。24年は1回戦敗退を喫し、昨年は無念の二次予選敗退。屈辱から大きく生まれ変わった今年の東海理化は、2年ぶり8回目の代表権を得た。
取材・文=岡本朋祐 写真提供=東海理化硬式野球部

東海理化は都市対抗東海地区二次予選で、第3代表で出場権を得た


「感謝日記」の効果


 この1年でチームは変貌した。昨年8月末、新たなチームスタッフとして、松本隆宏チーム強化推進アドバイザーが就任した。同社野球部に示したのは「Design Baseball」である。「設計して勝つ」ことがテーマ。自分の強みと課題に向き合い、チームとしての目標を共有しながら、実践と反省を反復していく。

 日々、地道な過程を繰り返す上で、日課となっているのは部員個々が記入する「M'sノート」。使命・ビジョン(Mission)、心の在り方(Mind)、セルフマネジメント・時間管理(Management)を土台に、成長と進化を続け、結果を求めるために欠かせない手帳となっている。

M'sノート


 ノートは序章から始まり、14項目にわたる約2センチの分厚さである。今年3月に配布された。24年から主将を務める入社7年目の左の強打者・武藤健司(中部学院大)は「このノートはものすごく大切というか、宝物になっています」と明かす。

「『感謝日記』を書くページがあり『毎日、ありがとう』みたいなことを書くんですが、この一冊で心の充実度が増します。試合の振り返りも記入でき、項目ごとにさまざまな問いがあって、自分自身と振り返る時間になる。人に感謝を伝えるとか、1日を『ありがとう』で終えると、翌日も良い1日が始められるんです。一般的には、本当にうれしいことだけが『ありがとう』になるんですけど、些細(ささい)なことの『ありがとう』に気づけるようになったり、今までありがとうと感じてなかったことを、逆に感じられたり。会社で仕事をしていく上で、自分一人では何もできない。地域、会社、社員、家族含めて周りに支えられており、感謝を伝える。大切なワードとして『謙虚』も入ってくるんですけど『ありがとう』を伝えると、研究的にも良い方向に進む、と。チームスポーツだからこそ、皆のモチベーションも含めて大事な部分です。松本さんからはすごく学ばせてもらっています」

東海理化の主将・武藤は愛工大名電高、中部学院大を経て入社7年目。主将就任3年目で、今年3月から「M'sノート」を活用している


 独自の取り組みはまだある。

「3人1組、4人1組ぐらいで9班に分かれる『メンタリング制度』を月1、2回実施しています。1グループで長男、次男、三男みたいに、本当の家族、兄弟みたいな感じで話し合いの場が設定されます。自分の現状や、テーマを決めた中でディスカッションするんですが、若手だけだと、話がまとまらず、あまりうまく回らないんですけど若手、中堅、ベテランと年齢層で分けて対話を重ねることにより、『学び合い、支え合い、ともに成長する』という力が醸成されます。結果的に、チーム全体が強化されるんです」

微差が大差に


 都市対抗二次予選では「メンタリング制度」の成果が出た。第1代表決定トーナメント2回戦でトヨタ自動車に敗退。東海理化は第3代表決定トーナメント(敗者復活戦)に回った。東海地区は第6代表まであるとはいえ、逆境へと追い込まれた。

「メンタリング制度のグループリーダー(長男)だけでミーティングをしました。反省点をすべて洗い出し、その後、選手全体の緊急ミーティングを開き、徹底事項を再度、明確にしました。ベテラン9人のグループリーダーが意思統一し、下の世代に落とし込むことで、勢いと一体感が増していった感じはありました」

 第3代表決定トーナメント準決勝では昨年11月の社会人日本選手権の優勝チーム・ヤマハを0対2から7対3で逆転勝ち。ジェイプロジェクトとの第3代表決定戦では3対4の9回裏に2点を奪いサヨナラ。チーム力の差が出る「接戦」を制した。

「Design Baseball」において、東海理化は26年の都市対抗優勝、27年の社会人日本選手権優勝、28年の二大大会制覇(都市対抗優勝、社会人日本選手権優勝)を掲げている。

「先に自分たちから設計するんです。未来から描いて、その場面が来たら、僕たちの野球が始まる。他チームに比べて、準備力の差はあると思います。自主練習よりも、コミュニケーションを取るグループワーク、もしくは選手、スタッフを合わせた全員のワークとか、そちらのほうが大事。土壇場でチーム力が大事になるとき、信頼関係というのは、コミュニケーションの場で築かれると思います。強固な絆がいまのチームにはある」

 社会人野球の力の差は紙一重。微差が大差となるのは、気持ちの部分だ。

「東京ドームに行けば皆、うまい選手がいる中で『じゃあ、どうやって勝つの?』と言ったら、自分たちがコントロールできることに集中するしかない。自分たちができることだけに100%重きを置いて、それで負けたら仕方ないぐらいの感じのスタンスでいます。シンプルに『仕掛け続ける』。先を描くことで、そこにしか執着がないというか……。今年であれば9月6日に都市対抗で東海理化が優勝しているんです。試合まであと何日と毎日、日付を皆で変えたりしているんですけど、全員が同じ目標に向かって、1日ずつ刻んでいく。本当に先に描くことで、皆がそちらに引き寄せられる。目標設定の大事さが再認識できました」

シートノックに注目


 今年3月、松本チーム強化推進アドバイザーの法大時代の恩師である全日本野球協会・山中正竹会長の講演を聞く機会に恵まれた。

「山中さんは『凡事徹底』を強調され、当たり前のことを当たり前にやるレベルをどんどん上げていくチームが勝つ、と。人として、チームとして、結束力がある集団が勝つ。どこで差をつけるかと言えば、細かい部分にまで気を配る徹底力なんです」

 新風を吹かせそうな予感がする。

「本戦が近づくにつれて緊張、不安とかがあると思うんですけど、ウチのチームはワクワクが勝っているんです。早く試合がしたい、と。皆で先を描いているからこそ、すごく前向きに、大会本番までの日付が少なくなっていることさえも楽しめるようなチームになってきている。あとは東京ドームでケガなく、全員で臨むだけかなというのは感じています」

 栄光の黒獅子旗を奪取するには1回戦から決勝まで5連勝が必要だ。設計どおりであれば「9.6」の決勝を見据えているはずだが、あくまでも取り組みの過程。目の前の戦いに全神経を研ぎ澄ませる。武藤主将は言う。

「矛盾するところがあるんですけど、チームとしては一戦必勝を掲げています。ただ、M'sノートには日本一を達成するという明確な目標があるので、オープン戦では5連勝を意識し、誰が出ても、どんな球場でやっても、どこが相手でも勝つチームは東京ドームでも勝てる、と。トーナメントですから一戦一戦やっていくゲームプランになると思います」

 メンタルを充実させる上で、東海理化の強みは何か。試合前のシートノックだと言う。「ただの準備ではなく、より意識を高めるようにしたんです。準備の気持ちでやっていると、試合の一発目は緊張すると思うんですが、120%で行くことで、プレーボールの段階では試合中盤ぐらいのテンションで入れる。相手も圧倒できるし、自分たちとしても、気持ち的に楽に入れる効果があります。目指しているのは、シートノックから見に来てもらえるようなチームです」。

 東海理化はスポーツ界における斬新なメソッドで「戦う集団」となった。「知力」と「心力」が備わる思考力を、社会人野球から発信していく。
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