補強選手は都市対抗独自のルールだ。代表チームは、同地区の予選で敗退したチームから“助っ人”を招き入れる。同枠をうまく活用したチームが勝ち上がる傾向もある。東京ドームでの貴重な経験を自チームへと持ち帰る。 取材・文=佐々木亨 ※セガサミーから補強 
Honda鈴鹿との1回戦で3ランを放ち、初戦突破に貢献。今季で廃部となるセガサミーの代表としてバットを振った[写真=高野徹]
自チームは今季限りで廃部
今夏の東京ドームには、セガサミーの応援曲で、セガの人気ゲーム「サクラ大戦」シリーズの代表曲である「檄! 帝国華撃団」の音色が響いた。都市対抗に出場した東京都の各チームが、セガサミーからの補強選手が打席に立つたびに、その楽曲で後押し。20年以上の歴史を築いてきたセガサミー野球部は今季限りで廃部となる。2020年にセガサミーに入社した
中川智裕(近大)は今夏、さまざまな思いを背負ってJR東日本の補強選手として東京ドームに立った。
「耳に入ってきて、こみ上げてくるものがありました」
打席に立つと聞こえてくる応援歌が力になった。Honda鈴鹿(鈴鹿市)との1回戦では、3回表にセンター後方のスタンドに飛び込む3ランを放った。「一球で仕留める」と心の中で誓った中川が、やや右中間寄りの最深部に放り込んだビッグアーチは、JR東日本にとって大きな追加点となった。
中川には、ホームランがよく似合う。今年の都市対抗東京都二次予選。NTT東日本との初戦(2回戦)では、タイブレークとなった延長10回表に左翼スタンドに飛び込む満塁弾を放った。その姿にもまた、「中川らしさ」が凝縮されていた。
そして、東京ドームには、めっぽう強い。入社2年目の第92回大会では、JR東日本東北(仙台市)との準々決勝で満塁弾を放った。続くHonda熊本(大津町)との準決勝では、試合終盤に同点に追いつく特大のソロアーチを放った。5年目の第95回大会では、明治安田(東京都)の補強選手としてヤマハ(浜松市)との1回戦で満塁弾。そして、今年の1回戦で自身4本目となる東京ドームでの一発を放ったのだ。
まだまだ続く野球道
セガサミーでは主に遊撃手を担う中川は、JR東日本では二塁を任せられた。「ソフトボールをやっていた小学4年生以来のセカンド」。不慣れなポジションでも「頑張るだけです」と笑い、チームの勝利のためにグラウンドに立ち続けた。
「今年限りでの廃部が決まり、最後はセガサミーとして出場することはできませんでしたが、(JR東日本に)出られる機会をいただいたので精いっぱい、次の試合も頑張りたい」
都市対抗への思いをそう語っていたのは初戦突破を果たした試合直後。言葉どおりに東邦ガス(名古屋市)との2回戦では、2点を追う9回裏に意地の一発を放つ。ファーストストライクをとらえた打球は、打った瞬間にそれと分かる左翼スタンド中段に飛び込むソロアーチとなった。中川にとって通算5本目となる東京ドームでの本塁打。今大会では2試合連続となるビッグアーチに、詰めかけた観衆は目を丸くした。
新型コロナ禍の年にセガサミーに入社。同年、そして翌21年と2年連続で都市対抗4強を経験した。21年の都市対抗では打撃賞、その年の社会人ベストナインに選出された。そして都市対抗では補強選手も経験しながら、野球道を歩んできた。
「いろいろなチームで多くのことを経験させてもらった。それらを今後に生かしていければと思っています」
今夏も中川のホームランに酔いしれた。その野球人生は、終わらない。
PROFILE なかがわ・ともひろ●1997年8月4日生まれ。大阪府出身。188cm92kg。右投右打。小学1年時からソフトボールを始め、久宝寺中では大阪八尾ボーイズでプレー。近大付高では1年夏からベンチ入り。3年時は主将、四番。近大では1年春からベンチ入り。全日本大学選手権、明治神宮大会に出場。20年に入社したセガサミーでは、1年目から遊撃手。21年に都市対抗打撃賞、社会人ベストナインに選出。7年目の今年はJR東日本の補強選手として2試合連続本塁打。