
戦場を福岡に移し、力の限りを尽くす市川
プロ9年目のシーズンを
市川友也は
日本ハムの二軍で迎えた。折しも
ソフトバンクは
高谷裕亮、
栗原陵矢、
九鬼隆平と捕手陣に負傷者が続出。一軍経験のある捕手が
甲斐拓也だけという緊急事態に陥っていた。4月半ばに金銭トレードで移籍。飼い殺しかという状況を脱し、請われて同一リーグのライバルに移ることになった。
「自信があるのは肩。日本一が目標のチームだと思う。そのひと駒になれるように」。ひと駒と控えめな言葉は半ば本音。「正直、キャンプもオープン戦もやってない難しさはあります」。投手とコミュニケーションを取り、準備段階で実戦でのトライを積み重ねる過程を経ていない。5月に入って初昇格。事実、初スタメンマスクの試合で5被弾と盛大に食らった。
そこから微調整ができるのは経験ゆえだ。第2捕手としての立場を確立し、故障者続出で経験豊富とはいえない投手陣を巧みにリード。チーム事情で捕手を3人から2人に減らすことになった6月末も、高谷でなく市川が一軍に残された。
吉鶴憲治バッテリーコーチは「物おじせずにサインにも迷いがない。横の幅を使ったリードがうまい」と評する。バッテリーを組むことが多い
攝津正をして「野球をよく知っている」と言わしめた。開幕直後はホテル暮らしが続いたが、5月からは夫人、2子と福岡に居を構えた。シーズン折り返しの時期を迎えても、いまだ苦境の続く昨季王者。言葉どおり「日本一のひと駒」となるべく、限られた出番に向けて粛々と備えている。
写真=桜井ひとし