
千賀のノーヒットノーランを抱き合ってともに喜ぶ甲斐(写真右)
下位でも最下位だった。2010年秋のドラフト。今ではその強肩が「甲斐キャノン」と称され、侍ジャパンの常連となった
甲斐拓也は、
ソフトバンクでは最後の育成6位、全体でも指名全97人中94番目に名前が呼ばれた。その年の育成4位が千賀。この2人が球団史に名前を刻むとは誰が予想できただろうか。
9月6日の
ロッテ戦(ヤフオクドーム)。甲斐はバッテリーを組み、チーム76年ぶりにノーヒットノーランを成し遂げた
千賀滉大とともにお立ち台に上がった。バットでは先制打をマークし、懸命にリードした。「ゲームセットになった瞬間に今までのことを思い出しました。育成で一緒に入って、汗水流して頑張ってきた。いろいろと考えさせられるものがあった。何とか千賀のいい顔が見たいと思っていた。最高の顔が見られましたね」。その目は潤んでいた。
ここまでの道のりは決して平たんではなかった。同期で1位の
山下斐紹(現
楽天)と比べられ、背番号3ケタからのスタート。13年オフにようやく支配下選手登録をつかんだが、出場機会はわずかだった。転機は17年、千賀や
東浜巨らとバッテリーを組み、103試合に出場。「たくさんの経験ができた1年」と振り返った。そして全国に名をとどろかせたのは、昨年の
広島との日本シリーズだ。6連続盗塁阻止の新記録をつくり、育成ドラフト出身初のシリーズMVPにも輝いた。来年の東京五輪の正捕手候補。最下位からのシンデレラストーリーはまだまだ続く。
写真=湯浅芳昭