
レギュラー奪取へ、新たな気持ちで開幕を待つ
長い空白を埋める舞台は用意されている。待ち望んだ開幕が延期になっても、
戸柱恭孝には落ち着きがあった。「数字の目標を言えるのは、絶対的なレギュラーだけだと思うので。とにかく1年間、ずっと戦力として必要とされるように努力を続けたい」。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、
DeNAは選手ごとに時差をつけながら自主練習を導入。背番号10も攻守両面でレベルアップに励んでいる。
2016年にドラフト4位でプロ入り。長く固定できなかったベイスターズの正捕手候補として、周囲の期待に応えてきた。ルーキーイヤーから124試合に出場。2年目に記録した9本塁打、52打点は自己最高の数字だった。一気に花開くはずが、翌シーズンからまさかの転落。ここ2年は25、45試合と極端に出番を減らしてきた。「1点でも取られたらいけない。絶対に打たなきゃいけない。そういう気持ちが強過ぎて、何をやってもうまくいかなかったですね……」。焦りが失敗につながる悪循環。苦境打開には「開き直り」しかなかった。
分岐点と振り返ったのが、昨年8月16日からの
広島3連戦(横浜)だった。すべて先発マスクを託され「今できることを全力でやる。それでダメなら仕方ない」と腹を決めた。「内角にも外角にも、攻めと逃げがある」と配球に対する信念を貫き、3戦目には
今永昇太と1対0の完封勝利を演出した。
「トバにはスキルがある。もっと良くなるし、良くなれる」と入団時から愛情を注いでくれた
ラミレス監督を喜ばせた。「おごりがあったんだと思います」と自信と謙虚さも取り戻した5年目。
伊藤光へ勝負を挑み、復権の道を切り開く。
写真=井田新輔