どん底から這い上がった男は強い。井口和朋が“切り札”としてブルペン待機の日々を続ける。
昨オフに
日本ハムから戦力外通告を受けてトライアウトを経て、育成選手としてオリックスに入団。春季キャンプやオープン戦で結果を残し、開幕直前に支配下選手登録を勝ち取った。
「毎試合、今日が最後のつもりで投げています。一球一球、死ぬ気で投げています」
偽りのない“本音”が、体を突き動かしている。
5月19日の
楽天戦(京セラドーム)では延長10回に六番手として登板し、8球で3つのアウトを奪った。
「みんながつないでくれた試合。思い切って行くしかなかった」
チームのサヨナラ勝ちを呼び込み、2年ぶりの白星をつかんだ。「去年からのことがすべて、頭をよぎりました。一つ恩返しができたと思います」。真っすぐな言葉に、右腕の強さが凝縮されている。
「僕は一回クビになっているので。本当に何もかもがなくなったところで、オリックスに拾ってもらった。だから、毎試合にかける思いも強いですし、感謝の気持ちを持ってマウンドに向かっています」
昨年の秋は絶望の中にいた。「本当にもう一回、マウンドに戻れるのかな……」。じっと白球を見つめて、不安になったことは一度だけではない。
開幕から渾身の投球を続け、今では欠かせない存在になった。
僅差の展開を勝ち抜くためのブルペンのジョーカーとして、チームの浮上に貢献していく。
写真=BBM