まだスタートラインに立っていない。それでも確かな一歩を踏み出した。6月19日のナゴヤ球場屋内練習場。ゆっくりと確かめながら白球を投げた。視線の先にキャッチャーはいない。緑色のネットに向かい、久々の感触を味わった。
「痛みもない。順調です」とドラフト1位ルーキーの草加勝は、少しだけホッとした表情を浮かべた。
思い描いていた1年目とはまるで違う。異変が起きたのはもう半年前になる。1月の新人合同練習中に右肘に違和感を覚えた。キャッチボールを早めに切り上げて病院へ。診断は「右肘内側側副靱帯損傷」だった。
当初は
楽天の
田中将大がヤンキース時代に受けた「PRP(多血小板血漿注射)」による治療を受ける予定だったが、複数の病院で診察を受けた結果、保存療法よりも成功例の多いトミー・ジョン手術を受けることを決断した。
「立浪監督とお話をさせていただいて、『先のことを考えたら早く手術をやったほうがいい』と言ってもらった。監督のひと言が大きかった。ファンの皆さんには申し訳ないですが、しっかりと体をつくって戻ってこられるようにリハビリ、頑張ります」
急がば回れ――。こうなってしまった以上は、すべての状況をプラスに変えていくしかない。昨年のドラフトは草加を含め、東都大学リーグの投手7人がドラフト1位で指名された。ルーキーイヤーの半分が経過し、明暗はくっきりと分かれている。
「落ち込んでも仕方ないので、自分のできることは早く治すこと」。まだプロの道は始まったばかりだ。
写真=BBM