名実ともに地位を確立してなお、東克樹の心は満たされていない。三十路を迎える8年目。「30歳を超えた人たちから、30歳で1回体にくるという話を聞いている。そうならないために準備しないと。もっと上を目指したい」と意欲的だ。
2年連続2ケタ勝利を挙げた昨季は日本一の余韻に浸ったのもつかの間、歓喜の3日後には体を動かし始めた。オフシーズンにはデータ解析を行う施設に足を運び、さらなる高みを求めてフォームを分析。下半身から上半身への力の伝え方に向上の余地を見いだした。
参考にしたのは、メジャー・リーグのドジャースで150キロ超の速球を投げ込む
山本由伸のフォームだった。踏み出す足となる右膝の屈曲を抑え、股関節に力を伝えることで球速アップを目指した。結果的にリリース位置が昨年より約15センチ高くなり、生命線とする制球の乱れを招いたが、道程に後悔はなかった。
「現状維持は退化」と口にする左腕は「怖さはなかった」と貪欲に変化を求めた。「順調にいかないのが人生」と自らに言い聞かせ、感覚とデータを照らし合わせながらフォームを修正。開幕戦では7回無失点、無四球の好投で白星を手にした。
同じ左腕では
中日一筋で50歳まで現役を続けた
山本昌、
ヤクルトで先発枠の一角を担う45歳の
石川雅規ら息の長い先人がいる。「そこには何か秘密があるんじゃないかと思う。長くやるためには、ケガをしないことが一番」。節目の30歳、さらにその先の飛躍を期し、自身の可能性を追求し続ける。
写真=BBM