昨年の現役ドラフトで広島に加入した辰見鴻之介が、移籍1年目からプロ野球史にその名を刻んだ。
代走の切り札として、チームに欠かせない存在となっている。9月3日の
中日戦(バンテリン)では7回に代走出場し、シーズン26個目の盗塁を決めた。代走のみでは25盗塁となり、1979年の
藤瀬史朗(近鉄)の最多記録に並んだ。
さらに9月15日の
ヤクルト戦(神宮)9回無死から二盗を決め、新記録となる代走のみでの26盗塁を達成した。
盗塁数だけでなく、走らずして相手の脅威となった試合もある。8月20日の中日戦(マツダ広島)。同点の9回1死一塁から代走出場。
代走の切り札の登場に、マウンド上の中日・
アブレウは神経質になった。打者への第1球を投じる前からけん制球を投げ、二死とっても何度もけん制を送った。
モンテロに3ボールとしたところでたまらず、マウンドからベンチに申告敬遠を求めるほどだった。
歩いて得点圏に進んだ辰見は捕逸で三進し、さらに暴投でサヨナラのホームを駆け抜けた。
新井貴浩監督も「彼の足は、相手チームにとってすごくプレッシャーがかかる。走るだけでなく、代走に送ることで相手バッテリーを揺さぶることができる」と最敬礼だった。
楽天在籍時は通算2試合出場も、移籍を機に広島の武器となった。開幕から一時抹消を挟みながらも一軍に同行し続け、出場試合数は50試合を超えた。
多くの成功とともに、失敗も味わったが「逆に言ったら“行ったから失敗できた”という捉え方もできる。最初から“行かずに……”という年ではまだないと思いますし、未来のためにやっています」と胸を張る。
記録のためではなくチームのため、そして自身の未来のために、辰見は走り続ける。
写真=井沢雄一郎