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【高校 High School】

元プロの指導資格制度が見直しへ
条件緩和案が今年中にも正式承認
プロアマ雪解けへ大きな一歩

1月17日、東京都内で日本学生野球協会と日本野球機構が協議を行い、プロ経験者が高校の監督などの指導者になるための規定を撤廃する新たな条件緩和案がプロ側へ提示された。
早ければ今年中にも正式決定する見通しで、高かったプロとアマの壁が一気に雪解けの方向へと進み始めている。

 1961年の「柳川事件」(※注釈)以降、52年間にわたってそびえ立っていたプロとアマの“壁”が、今年大きな変革を迎えることになりそうだ。

※「柳川事件」……1961年4月、プロ野球は前年まで日本社会人野球協会と締結していたプロ退団者の登録時期や人数に関する協約の締結拒否を決定。直後に中日が日本生命の柳川福三外野手と契約したことで、一方的なプロ側の行為にアマ側はプロ退団者の社会人選手としての受け入れ拒否を決定した。同事件を機に、プロとアマの関係が悪化した。

 今回、アマチュア側がプロ側へ示した「条件緩和案」は、プロ、アマそれぞれが主催する座学での研修を受ければ、プロ経験者の学生野球指導資格の回復が可能になるという内容。これまでは、教員免許を取得し、2年以上の教員実績を重ねた後に日本学生野球協会による審査で指導者認定される必要があった。「(プロ選手が)高校野球に恩返ししたい気持ちが強いと聞いており、そういう行動をしている。シンポジウムも10年になり、その気持ちを素直に受け止めました」(日本高野連プロアマ健全化委員会・西岡宏堂副委員長)

▲昨春のセンバツで山口・早鞆高を率いた元ダイエー・大越監督。03年の現役引退後、07年に同校へ赴任。09年5月に資格認定された[写真=BBM]



 この日の決定は、昨年4月に行われた「学生野球資格に関する協議会」でプロ側からの提案を受け、それに回答したものだった。03年から現役プロが高校生を指導するシンポジウム「夢の向こうに」を開催。当初は屋内での講演会形式での指導を行ってきたが、昨年1月には初めて屋外での実技指導が実現した。

 さらに、日本野球機構が行った現役選手への「セカンドキャリアに関する意識調査」では、「引退後に一番やってみたい仕事」という質問で「高校野球の指導者」が3年連続1位。昨年12月に就任した嶋基宏選手会新会長(楽天)が「プロアマ問題の改善を」と話したように、プロ側にとっては1日でも早く解決したい事案だった。

 一方で、学生はプロ側に対して2つの懸念材料への同意を引き出した。1つはドラフト制度のルール順守。もう1つは人選については推薦球団が責任を負うという2点だ。「プロ退団後2年」だった期間が「5日程度」となったことは、アマ側の大幅な譲歩と言える。

 今後、各団体の理事会などを経てすべての制度が承認されれば、早ければ今年中にも新制度による資格回復者が出る可能性もある。しかし、慎重に事を進めていく必要があるのも事実だろう。

 座学による研修内容は5月をメドにプロアマ双方の意見をまとめて作成予定。日本高野連は、1月24日に行われる全国9地区の理事懇談会、3月21日の理事会などで各県の高野連に理解を深めていく。

■元プロ野球選手が高校野球の監督となるための道程
現行
現役引退→大学進学→教員免許取得→教員へ採用→教員実績2年以上→日本高野連を経て日本学生野球協会へ申請後、同協会による適性審査→監督就任

条件緩和案決定後
現役引退→5日程度の座学研修→監督就任


【大学 University】

2013ドラフト候補ピックアップ
新エース襲名に意気込む最速147キロ右腕
九里亜蓮[投手/亜大]

今春の東都大学リーグは、亜大が戦後2校目となる4連覇に挑戦するシーズンである。
。しかし、V3の原動力だった主将・東浜巨(福岡ソフトバンク1位)が卒業。
。この穴を埋めるべく、「新エース襲名」に意気込むのが、九里亜蓮(4年・岡山理大付)である。
(リポート/岡本朋祐)

 大きな期待をかけるからこそ、あえて突き放す。亜大・生田勉監督は今春の投手起用について、仰天プランを披露した。主将・東浜巨の後継者は自然の流れなら1学年後輩の九里亜蓮で疑いはないと思われた。昨秋まで3連覇を遂げた要因の一つとして、絶対的エースを2回戦の先発でサポートした186センチ右腕の存在感は絶大だったからだ。しかし、指揮官は昨年同様、九里を2回戦で使うことを明言する。

 「九里は昨秋までは週に1回、空き週のときは2週間に1回投げれば良かった。そこで確実に白星を拾ってくれたんですが、今年は東浜に代わる1、3回戦で投げ切る投手を作らないといけない。身体能力的には3年生右腕の山崎(康晃、帝京)に期待しているんです。正直、九里は神宮経験があるだけ。勝ち点を取らないといけないリーグ戦で、信頼度はゼロです」

 思い返しても、東浜は大学野球において理想のエースであった。リーグ戦は2勝先勝の勝ち点制。4年間8シーズンで14度もの「1回戦-3回戦」を経験し、62試合の登板で完投は41を数えた。生田監督からすれば、九里は肉体的、精神的にも物足りないと見ているのだ。

 潜在能力は申し分ない。父のマーク・アントニオ・シェックさんは、ブレーブス傘下の3Aで遊撃手としてプレー。九里は日本と米国の国籍を持っていたが、20歳を機に日本国籍を選択した。親譲りの野球センスで高校時代からドラフト候補として騒がれたが、4年後のプロ入りを目指し、東浜に心酔して亜大へ。偉大な先輩に対して、親しみを込めて「師匠」と呼び、練習から私生活まで、すべてを吸収しようと3年間取り組んできた。「東浜さんがいなくても、『亜がいれば大丈夫』と言われたい」。最速147キロの真っすぐは角度があり、鋭く落ちるチェンジアップ、スライダーでも空振りが取れる。1試合だけなら十分、実力を出し切れる。しかし、その一方で生田監督が主戦として求める連投、もしくは1カードで2試合の登板が未知数なのだ。

▲先輩・東浜が抜け、エースとしての役割を求められる亜大・九里[写真=BBM]



 年明けは全体練習開始より5日前倒した1月2日に始動した。2013年のテーマは「誰にも負けたくない」。これを新年早々、チーム一番乗りで体現したわけだが、生田監督はこの行動が気に入らない。「実績のある選手が一番早く帰京するとは……。『バタバタするな』と言いたい。意気込みが逆にプレッシャーに感じるんですよ。自信がない表れですかね……」

 中心選手を突き放すのは、今年に始まったことではない。昨年の練習始動日は、調整不足でランニングについて行けなかった東浜を一喝。報道陣の前で「主将にしたのは失敗でした」とはっきり言った。また、夏前には春先から調子が上がらない東浜の「2回戦先発構想」を展開。結局、その後に見違えるほどの復調を見せ、開幕戦先発を務め上げた。圧倒的な強さで3連覇を達成したように映るが、実はその過程は険しい道程であったわけだ。

 常に危機感を植え付けさせ、発奮させる。昨秋は藤岡貴裕(現千葉ロッテ)がプロ入りした東洋大が二部降格。エースが抜けた代償はあまりに大きく、4連覇がかかる生田監督も「明日は我が身」と考えるから、九里にも厳しく当たっている。「1回戦先発、2回戦救援、3回戦先発。それぐらい投げる準備をします」(九里)

 年末は1日340球、年明けも150球近い投げ込みを継続中。九里は指揮官の青写真を、良い意味で裏切るつもりだ。

PROFILE
くり・あれん●1991年9月1日生まれ。鳥取県出身。186cm82kg。右投右打。
アメリカ・フロリダ州で小学校3年から野球を始める。6年時に日本へ戻り、中学時代はボーイズ・米子ビクターズに在籍して全国大会出場。
岡山理大付高では3年春からエースも、同夏は県大会3回戦敗退で甲子園出場なし。
亜大では2年春に初登板を果たし、同秋からは1学年上の東浜(福岡ソフトバンク1位指名)に次ぐ2回戦の先発に定着し、昨秋まで3季連続優勝に貢献。
東都大学一部リーグ通算21試合、8勝4敗、防御率1.52。最速147キロ。変化球はカーブ、スライダー、チェンジアップ、ツーシーム。

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