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第95回都市対抗野球大会

元メジャー・リーガー16年ぶり登板 ENEOS・田澤純一が示した東京ドームでの16球

 

東海理化との1回戦。田澤は6点リードの9回表に2番手として登板し、打者4人に対して、1安打無失点で締めた[写真=福地和男]


「3つ勝ちたい」。ENEOS(横浜市)を指揮する名将・大久保秀昭監督(慶大)が都市対抗で掲げた目標だ。

 今季のENEOSは度会隆輝(DeNA)がドラフト1位指名を受け、長らく中軸を務めていた山崎錬(慶大)が現役引退。打線の大きなピースが2つ欠けた状態でのシーズンインだった。「序盤は手探りでしたが徐々にメンバーが固まり、都市対抗の予選からようやく光明が見えてきました」。チームの光となったのがルーキー・松浦佑星(日体大)と村上裕一郎(九州共立大)だ。

 東海理化(豊川市)との都市対抗1回戦で先発出場した両選手。「これまでに私が預かった選手のなかで1番目か2番目に脚力がある選手」(大久保監督)という松浦は3安打1打点。村上裕は中押しの2ランを放ち「新人が活躍してくれました」と指揮官も目を細めた。また、途中出場で試合を決定づける本塁打の小豆澤誠(上武大)については「厳しい争いのなか出場機会を勝ち取り、レギュラーを外れた悔しさをあの一打につなげてくれました」と評価した。

泥臭く一球一球


 一方、投手陣は糸川亮太(西武)がプロ入りし、関根智輝(慶大)が故障。そんななか加藤三範(筑波大)が柱となり、東海理化との1回戦も8回無失点の好投。「これまではビースと呼んでいましたが、エースと言っていいピッチングでした」(大久保監督)。そして、9回のマウンドに上がったのは田澤純一(横浜商大高)だった。田澤は08年に大久保監督が率いる新日本石油ENEOS(当時)で都市対抗を制覇し橋戸賞を受賞。13年にはレッドソックスでワールドシリーズ優勝を経験し、22年9月に古巣へ復帰していた。

 都市対抗は16年ぶりと登板となったが1回を無失点で抑え「久々に大声援で名前を呼んでもらえて光栄でした。昨年は肩が不調で、今も本調子ではないのですが、投げてチームに貢献できました」と振り返り、この試合の最速は142キロだったが「球速よりも、泥臭く一球一球を投げて勝つことができてよかった」と、16球を語った。

 田澤を呼び戻した大久保監督は「海外挑戦をして世界一になって。実績を積んで、最後はもがいて落としどころをどうするのかというところ。ひとまずは都市対抗で登板させられてホッとしています」と話し、田澤は大久保監督について問われると一瞬だけ、こみ上げる涙を我慢する表情を見せたが、すぐに笑顔となり「自分が投げることで会社名がメディアに出れば(大久保監督への恩返しにもなる)」と感謝の意を示した。自身の去就については「現役を続けるかどうかは別にして、投げられたことをポジティブにとらえて次戦に準備したい」と語った。


 2回戦は東京ガス(東京都)と対戦したが打線が沈黙し0対2で敗退。大久保監督が慶大で采配を振っていたときの教え子でもある高橋佑樹(慶大)に6回を無得点に封じられ、指揮官は「仕方がない」と繰り返した。目標の3勝は達成できなかったが「未来ある選手が多いので楽しみ」と大久保監督。チームを去る者がいれば、入ってくる者、戻ってくる者もいる。来季のENEOSもまた、新たな姿で頂点へ挑む。(取材・文=大平明)
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