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第95回都市対抗野球大会

被災地に勇気を与えた伏木海陸運送の全力プレー 一球への思いが「希望の光」に

 

伏木海陸運送は三菱重工Eastとの1回戦で敗退。スタンドには平日にも関わらず、多くの観客が詰めかけた[写真=矢野寿明]


 今年1月1日。石川県を中心に甚大な被害をもたらした能登半島地震。影響は隣県にも及び、震度5強を記録した富山県高岡市に本拠地を置く伏木海陸運送も、大きなダメージを受けた。田中翔監督(高岡法科大)は地震発生後、家族とともに近くの小学校へ避難した。そして、会社は沿岸部にあるため、その付近では液状化現象も起こっていた。

 主将・水野克哉(中部大)によると「電柱が倒れて道路が通行止めになっていましたし、会社の中も物が崩れていて自分が想像していたよりもはるかにたいへんなことになっていました。グラウンドを見に行く余裕もありませんでしたし、野球をするという感じにはなりませんでした」とショックを受けていた。

 そんな状況を鑑みて、本来なら年明け早々から練習に入る予定だった野球部も活動を休止。練習を開始したのは1カ月後の2月1日からだった。そのため「チームの始動が遅れたことで仕上がりも遅くなってしまいました」と田中監督。5月のJABAベーブルース杯では3試合すべてで6点差以上をつけられて敗退した。それでも「選手には『震災で被災された方々に野球を通して勇気や元気を与えられるようにやっていこう』と言い続けてきました」と指揮官。

 水野主将も「社長をはじめ、上司の方々が『練習に行ってこい』と言ってくれて、そのおかげで野球を続けることができました。感謝の気持ちを勝利という結果で示したいんです」とモチベーションの高さは例年以上だった。

 田中監督は「『慌てることなく都市対抗にしっかりと照準を合わせて段階を踏んでいこう』と話していたので、選手も焦ることなくプレーしてくれました」とあらためて目標を再認識し、立て直しを図った。

 特に力を入れてきたのが打撃だ。「今季は攻撃で5点。守備では3点に抑えて勝つことを目標にし、バッティングに時間をかけてきました」(水野主将)。6月の都市対抗・北信越二次予選では「相手チームのエースとは何度も顔を合わせているのできっちりとフォーカスできました」(水野主将)とチーム打率.364。3試合で22得点と打線が爆発し、本戦への切符を手にしたのだった。

悲願の大会初勝利はお預け


 3年ぶり7回目の出場となった都市対抗。いまだに白星がなく、悲願の1勝を目指して三菱重工East(横浜市)と1回戦で対戦。しかし、「課題を克服できなかった」(田中監督)とこの大会で橋戸賞を受賞した本間大暉(専大)の前に打線が沈黙。5安打で零封され、0対2で敗れた。

「まだ本当の攻撃力がない。打つだけではなく、どうやって得点を奪うのか引き出しを増やしていかないと」と水野主将。田中監督も「得点を取らないと勝てない。反省しなければ」と口をそろえた。

 ただ、大応援団が駆けつけたスタンドに対しては「平日にもかかわらず、たくさんの方が来てくださって感謝の気持ちでいっぱいです」と話し、水野主将は「応援してくださった皆さんに、まずはお礼を伝えたい」と口にした。

 初勝利はならなかったが、苦難を乗り越えて東京ドームへたどり着いた伏木海陸運送。その奮闘ぶりは地元の方々の心に希望の光を灯したことだろう。(取材・文=大平明)
アマチュア野球情報最前線

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