
王子は三菱自動車岡崎との東海対決となった決勝を制し、2度目の優勝を飾った[写真=矢野寿明]
エースの貫録が、決勝のマウンドを支配する。三菱自動車岡崎の先発を託された7年目左腕・秋山翔(武蔵大)は、走者を背負いながらも王子打線に決定打を許さなかった。梶山義彦監督(静岡高)は「彼の野球への取り組みに文句を言う選手はいない」と言い切るほど、エース左腕に全幅の信頼を寄せる。第72回大会(2001年)以来、24年ぶりの決勝進出にして初優勝を狙う三菱自動車岡崎を率いる指揮官の期待に応えた秋山の快投が、東京ドームに張り詰めた空気をもたらした。今大会初スタメンとなったルーキー・大手晴(青学大)の先制打で三菱自動車岡崎がリードを奪ったのは4回裏。その1点を守り抜く秋山のピッチングは、試合中盤から終盤にかけても衰えることはなかった。
試合の潮目が変わったのは8回表だ。準決勝までの4試合でわずか3失点の三菱自動車岡崎の投手陣を、準決勝まで計26得点と好調を維持した王子打線が攻略する。下位打線の細川勝平(中部大)、中川壱生(東北福祉大)の連打で秋山をマウンドから引きずり下ろすと、代わった神原友(東海大)を迎えて敵失と犠飛で2得点。驚異の粘りを見せた王子が東京ドームの空気を変え、そのまま頂点に登り詰めた。決勝点を生み出す犠飛を放った王子の四番・
吉岡郁哉(法大)は言う。
「外野フライでも1点の場面。タイムリーという最高の結果ではありませんでしたが、しっかりとライト方向へ打てたのはよかった」
7年目の吉岡が言葉を加える。
「湯浅貴博監督(享栄高)が就任してから、ずっと四番を打たせてもらい、育ててもらった。優勝という形で恩返しができてよかった」
王子を率いて4年目の湯浅監督は、現役時代は長らく打線の中核を担った左の強打者だった。「王子の四番」としての姿や心構えを、湯浅監督から「厳しくも我慢強く、教えてもらった」と吉岡は言う。
1回戦でミラクル劇
第75回大会(04年)以来、21年ぶり2度目の黒獅子旗を手にした王子の戦いは、まさに「厳しさ」と「我慢強さ」が交錯するスタートだった。パナソニックとの1回戦は、9回二死から同点に追いつき、タイブレークの延長10回表に3点を勝ち越されながらも、その裏に4点を奪って逆転でのサヨナラ勝利だった。2回戦で西部ガス、準々決勝でJFE東日本、準決勝でヤマハを強力打線で破るのだが、始まりはミラクルの連続だった。優勝直後の湯浅監督は「あそこ(パナソニック戦)でひっくり返したのが、その後につながった」と言った。そして、「粘りの王子」と言われるゆえんを、延長10回サヨナラ本塁打で決勝を制した04年の都市対抗に視線を送りながら静かに考え、21年ぶりの優勝をかみしめるのだ。
選手たちと新たな歴史を築いた湯浅監督は、激戦を終えたばかりの東京ドームでの優勝インタビューでこうも語った。
「21年かかりましたけど、諸先輩方、OBの皆さん、何よりも従業員の皆さんに、こういう景色を、いつか見せられると信じてやってきました。選手がその気になって、東京ドームで5連勝するんだと強い気持ちを持って戦い、こういう結果になって本当にうれしく思います」
この景色、つまりはグラウンドとスタンドが一体となって都市対抗優勝に歓喜する瞬間がいつか訪れることを、湯浅監督は信じていた。
「選手たちも、自分たちを信じてやっていましたね。それがベンチにいてヒシヒシと伝わってきました。ケガをして悔しい思いをしていた宝島もまた、決勝でも『我慢しよう』と何度もベンチで言ってくれて。試合に出ている、出ていないに関係なく、すべての選手が信じてやった結果だと思います」

湯浅監督は選手の手によって、東京ドームを舞った[写真=矢野寿明]
食事会場での言葉
主将の宝島史貴(愛知学院大)は本大会直前の8月16日、トヨタ自動車とのオープン戦でファウルを打った際に左手を痛めた。左手首有鈎骨(ゆうこうこつ)骨折と診断されて、本大会開幕前日の27日に手術した。チームには帯同して本大会でもベンチに入った宝島は、8月24日の誕生日を宿泊先のホテルでチームメートから祝ってもらった。食事会場にはケーキが用意されていた。その席で、宝島は「(帯が)紫色のメダルをかけましょう」と、みんなの前で言ったという。大会期間中は、試合当日に1時間ほど、選手全員が集まってミーティングをした。試合展開と戦略を考え、最後は勝利する自分たちをイメージした。宝島は言う。
「僕の誕生日を祝ってもらったときの言葉が現実となり、大会では5試合すべて、本当にイメージどおりに戦えました」

主将・宝島は栄光の黒獅子旗を手に。応援席に向かって優勝を報告した[写真=矢野寿明]
2年ぶりとなる東海対決、初の愛知県勢対決となった今夏の決勝。そこには、自分たちを信じ続け、チームに広がる一体感を持って戦う王子の強さがあった。(文=佐々木亨)
【第96回都市対抗野球大会決勝】 9月8日 東京ドーム 開始18時8分 終了20時56分

[王]樋口、柳橋、〇九谷-細川 [三]●秋山、神原、清川-西川
◇二塁打 細川[王]、水谷[三]
◇球審 高橋 塁審 深沢、杉本、緒方
■第96回都市対抗野球大会結果 【表彰選手】 
九谷瑠[大阪大谷大]が大会MVPにあたる橋戸賞を受賞。今大会4試合に登板して3勝を挙げ、決勝も6回からの4イニングを無失点に抑えた[写真=矢野寿明]