
西濃運輸・佐伯監督は前回優勝の14年は橋戸賞。ナインの手によって胴上げされ、指揮官としての黒獅子旗奪取も格別だった[写真=矢野寿明]
約2万人の観衆が放つ熱気が、東京ドームを包み込む。第97回都市対抗野球大会の決勝が、フィナーレを迎えようとしていた。
9回表。2点を追うNTT西日本(大阪市)が、
辻本勇樹(仙台大)の右中間スタンドへ飛び込むソロアーチで追いすがる。なおも、パナソニックからの補強選手である山路将太郎(東北福祉大)が右翼フェンス直撃の二塁打を放って攻め立てた。西濃運輸(大垣市)は、この回からヤマハからの補強選手である
水野匡貴(明大)がマウンドに上がっていた。準決勝までの4試合で完璧なリリーバーを務めていた水野は、同点のピンチを迎えて降板。一塁側ベンチに戻るその目は潤んでいた。反撃に転じるNTT西日本に対し、西濃運輸は我慢の時間を迎えていた。
西濃運輸のマウンドに、13年目の山下大輝(常葉大浜松キャンパス)が向かう。思えば、2014年の第85回大会で西濃運輸が初優勝を果たしたとき、山下は入社1年目の右腕だった。東海二次予選では登板機会を得たが、本大会では一度もマウンドに登ることなく、チームの優勝を見届けた。12年前の記憶と思いを背負い続けてきたベテラン右腕が今、都市対抗優勝を託されたマウンドにいる。そう思うだけで感慨深いものがあった。NTT西日本の代打・
夏目大(専大)を中飛に打ち取り、二死三塁。そして、二番・酒井良樹(駒大)を迎えて、山下の投球はさらに熱を帯びた。
「一球に思いを込めて投げてくれた」
山下をそう評したのは、西濃運輸の佐伯尚治監督(九産大)だ。ベテランが投じた渾身(こんしん)の変化球に対して、酒井のバットが空を切る。空振り三振。その瞬間、東京ドームのど真ん中には右腕を突き上げて喜びを爆発させる山下の姿があった。
強さが凝縮された一戦
西濃運輸にとって2度目の黒獅子旗だ。12年前の初優勝時、エースとして橋戸賞を手にしたのが、現監督の“佐伯投手”だった。現役時代とは違う優勝を味わった佐伯監督が、激闘の熱が残るグラウンドで語る。
「最後はドキドキもありましたが、選手たちがよくやってくれました。私の選手時代のときもうれしかったですが、今回の優勝も本当にうれしいです」
創部66年目の今年、12年ぶり2度目の都市対抗制覇を果たして、これまで野球部に携わってきたすべての人々に「感謝」の思いも伝えた。
決勝では4回裏の先制打を含む2安打。捕手として投手陣を献身的に支え、主将としてもチームをまとめ上げた
城野達哉(中部大)は、優勝インタビューで「選手全員が心を一つにして」戦ったことを強調した。大会を通じて四番として勝負強さを見せた野崎大地(久留米工大)もまた、チームが「一枚岩になって戦った」ことが勝因だったと言う。優勝が決まった瞬間、佐伯監督をはじめとするスタッフ陣が涙を浮かべながら抱き合う姿にこそ、西濃運輸の強さが凝縮されていたのかもしれない。
決勝進出は61年ぶり
一方、NTT西日本も最後まで一つになって優勝への執念を見せた。
「最後に勝たせてあげられず、選手には悔しい思いをさせてしまった」
チームを率いて5年目を迎えた河本泰浩監督(駒大)は、1点差で準優勝に終わったことを悔いたが、大会を通した戦いでは歴史的な瞬間が何度も訪れた。2回戦ではNTT東日本(東京都)を下す。1999年のNTT再編に伴い、野球部が東西2つに再編されて以降、「東日本」と「西日本」の両チームが都市対抗で対戦するのは大会史上初だった。
「NTT対決」を制したチームは、JFE西日本との準々決勝で危なげない試合運びを見せて勝利。旧電電公社時代に電電近畿だった71年以来の準決勝進出を決めた。そして、決勝進出は初優勝した65年以来、実に61年ぶりのことだった。半世紀以上の時間を経てたどり着いた西濃運輸との決勝では、4点ビハインドで迎えた7回表に辻本、串畑勇誠(東海大)の適時打で2点を返して意地を見せた。そして、最終回に見せた驚異の粘り。記録と記憶を残した大会を振り返り、主将の水島滉陽(東京情報大)は「最後に勝てなかったことはマイナスかもしれませんが、プラスの部分もあった」と言う。極上の2時間51分に及ぶ決勝を終え、その表情には悔しさと充実感が入り混じっていた。

NTT西日本は惜しくも準優勝。入社15年目の36歳、濱崎が久慈賞を受賞した[写真=矢野寿明]
なお、大会の最優秀選手賞にあたる橋戸賞は、ヤマハからの補強選手・西濃運輸の前野幹博(PL学園高)。久慈賞には、準決勝で完投勝利を収めるなど、大会を通じて活躍したNTT西日本の
濱崎浩大(東日本国際大)が受賞。また、小野賞はエイジェック(小山市)、首位打者賞は14打数7安打、打率.500で三菱重工Eastの
武田健吾(自由ケ丘高)、打撃賞は西濃運輸の野崎、新人賞にあたる若獅子賞は三菱重工Eastの
小澤周平(早大)が、それぞれ受賞した。(取材・文=佐々木亨)
■第97回都市対抗野球大会結果 
※白丸数字は出場回数
※黒丸数字はコールドまたは延長[タイブレーク]回数
【表彰選手】 橋戸賞/前野幹博[西濃運輸](ヤマハから補強)
久慈賞/濱崎浩大[NTT西日本]
小野賞/エイジェックチーム
打撃賞/野崎大地[西濃運輸]
首位打者賞/武田健吾[三菱重工East]
若獅子賞/小澤周平[三菱重工East]