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山崎夏生のルール教室

通称「魔の2メートル」 過去の事例こそ最大の財産/元パ・リーグ審判員 山崎夏生に聞く

 

打者の若月健矢[左]は規則を把握していた。即座に伏見寅威[中央]のプロテクターを指さしている


【問】4月8日のオリックス日本ハム戦(京セラドーム)でのこと。2回裏無死満塁から上沢直之投手(日本ハム)の投球がワンバウンドして捕手のプロテクターの中に入り込んでしまいました。球審は瞬時にタイムをかけ各走者を1個ずつ進塁させ得点1、無死二、三塁でのプレー再開となりました。以前に故意でなければ守備側の不利益を取り除くだけで走者は進塁させない、という記載があったような気がするのですが?

【答】打者と球審の間は2メートルほどですが、この空間の中では本当にいろいろな難プレーが起こります。投球判定のみならず打撃妨害や守備妨害、ハーフスイング、死球かファウルかフェアかなどなど、一瞬たりとも気が抜けず、われわれは「魔の2メートル」と呼んでいました。今回もそんな例ですね。

 まずは正規の捕球の定義ですが、5.09(a)(1)には「(前段略)帽子、プロテクター、あるいはユニフォームのポケットまたは他の部分で受け止めた場合は、捕球とはならない」と明記されています。

 で、投球の場合は5.06(c)(7)に「捕手のマスクまたは用具、あるいは球審の身体やマスクまたは用具に挟まって止まった場合―各走者は進む」とありますので、この処置で正しいのです。

 故意ではない妨害は打者のスイングの余勢や、捕手のはじいた投球が打者や球審によって不注意にそらされた場合に適用されるのです。自軍の捕手にはいかに不可抗力とはいえ、適用されません。苦しいかもしれませんが、プロテクターをきつめに締めておくしかないでしょう。

 ではファウルチップがプロテクターやマスクに挟まったならばどうかというと、これは単なるファウルで各走者は進塁できません。そこからすぐに取り出して正規の捕球だとアピールしても無効です。とはいえ、それらの部分に当たりインフライトの状態にある投球でしたら捕球となります。

 また、捕手がはじいた投球をマスクやミットを投げつけて大きくそれるのを阻止しようとする行為もいけません。当たらなかったり、無走者ならば問題はありませんが(マナーはさておき)、もしも当たれば各走者に1個の進塁が許されます。

 このようにワンバウンドやファウルチップでは、いろいろなケースが想定されます。審判の一番の大敵は慌ててしまうこと。実はどんな難プレーも大抵過去に事例があり、それを知っていることが最大の財産となります。

PROFILE
やまざき・なつお●1955年生まれ。新潟県上越市出身。高田高を経て北海道大に進学。野球部でプレーした。卒業後は日刊スポーツ新聞社・東京本社に入社するも野球現場へのあこがれから、プロ野球審判としてグラウンドに立つことを決意。82年にパ・リーグ審判員として採用され、以後29年間で一軍公式戦1451戦に出場。2010年の引退後はNPBの審判技術委員として後進の指導にあたった。現在は講演、執筆活動を中心に活躍する。
よく分かる!ルール教室

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元日本野球規則委員・千葉功による野球ルールコラム。

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