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山崎夏生のルール教室

差し違い(ダブルジャッジ)も 事後は的確な処置/元パ・リーグ審判員 山崎夏生に聞く

 

協議を行う審判団。日本シリーズは6審判制のため左翼線審を務めていた責任審判が加わり裁定を決めた


【問】日本シリーズ第2戦の1回裏にいきなりのトラブルがありました。一死一塁から森友哉選手(オリックス)の打った一塁ゴロを市川球審はフェア、福家一塁審判はファウルと判定し大混乱。最初は3-6-3の併殺打が成立したかと思いきや審判団が協議の結果ファウルとなり、一死一塁のままでの試合再開となりました。塁より手前の判定は球審がすると聞いたことがありますし、なぜリプレイ検証をしなかったのかも疑問です。当該の審判以外はその微妙な打球の位置が見えていないのですから、協議も無意味ではありませんか?

【答】確かにご指摘のとおり二つのジャッジが出てしまったことはベストではありませんが、その後はベストの処置でした。こういった差し違い(ダブルジャッジ)が起こるのは例えば連係ミスにより同一塁に2人の審判が来てしまった、あるいは2人の審判が外野飛球を追った、そして今回のように微妙なライン際の打球判定のケースなどが考えられます。

 本来ですと「審判員メカニクス」(動きの教科書)により、判定責任範囲が定められており、塁よりも前の打球ならば球審が判定します。とはいえ、これは絶対的なものではなく、あくまでも審判間の取り決め事項です。おそらくこのケースでは打者走者と一塁線上の打球が重なり、球審は相当に見にくかったのではないかと思います。その状況を察した一塁審判は、明らかなファウルであると確信していたがためにアシストしたのでしょう。逆に塁上への打球を避けるのに精いっぱいで判定できなかった塁審を、球審がアシストすることもあります。これもまた審判団のチームワークなのです。

 このように一つのプレーに対し二つのジャッジが出てしまった場合には8.03(c)に「責任審判が最適の位置から見たのはどちらだったか、どちらの裁定が正しかったかを参酌して決定する」と書かれています。よってこの試合ではレフトに居た嶋田責任審判が岡田彰布監督(阪神)への説明と場内放送を担当しました。

 なお、リクエスト制度の対象外となるプレーには「塁よりも手前の打球」と明記されています。こういった打球は球審、塁審ともに至近距離で見えますし、特に微妙なライン際の判定などは真上からの画像がなければ検証不可能だからです。またファウルをフェアに変更した場合などには、その後の打者や走者の扱いがあまりにも多岐にわたり、さらに大きな混乱を招くからです。

PROFILE
やまざき・なつお●1955年生まれ。新潟県上越市出身。高田高を経て北海道大に進学。野球部でプレーした。卒業後は日刊スポーツ新聞社・東京本社に入社するも野球現場へのあこがれから、プロ野球審判としてグラウンドに立つことを決意。82年にパ・リーグ審判員として採用され、以後29年間で一軍公式戦1451戦に出場。2010年の引退後はNPBの審判技術委員として後進の指導にあたった。現在は講演、執筆活動を中心に活躍する。
よく分かる!ルール教室

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元日本野球規則委員・千葉功による野球ルールコラム。

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