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山崎夏生のルール教室

学童野球で起こる想定外 解決するのも審判の重要なテクニック/元パ・リーグ審判員 山崎夏生に聞く

 

学童野球の審判が一番難しい、というのは審判界の定説。想定外のプレーが頻繁に起こり、筆者も一番、緊張するとのこと[写真=筆者提供]


【問】学童野球でこんな難プレーがありました。無死満塁で内野ゴロ、本塁に送球されたのですが捕手の足がホームベースに触れていませんでした。タイミングは完全にアウトだったので、三塁走者はあきらめて本塁を空過しました。この時点では球審はノージャッジでした。その後、一塁へ転送され打者走者はアウトになりました。試合はそのまま続行され、投手が1球を投げたあと、球審は得点1で一死二、三塁だと両チームに示しました。皆、無得点で併殺打と思っていたので大混乱。この処置で良かったのでしょうか?

【答】学童野球あるあるの珍プレーですね。まず触塁あるいは触球がなければ走者はアウトにはなりません。また塁の空過はアピールプレーですから、審判が勝手にアウトと宣告することもできません。とはいえ、空過しているのですからセーフでもありません。よって、この場合は球審がノージャッジだったのは正解でもあるのですが、その後の混乱を防ぐための方法もあります。

 まず三塁走者は本塁に到達する以前にアウトと思い込みベンチに帰ってしまったならば、走塁放棄として即時にアウトを宣告すべきです(5.09.b.2)。このケースのように到達後の空過ならばアピールがない限りはアウトを宣告してはなりません(5.09.c.参照)。これは例えば二塁打を打ったときに一塁を空過しても即時にアウトとならないのと同様で、いわばセーフとみなされている状態です。ですから投手が1球を投じた時点でアピール権は消滅しますから、三塁走者の本塁生還は認められ得点となります。

 原則的にプレーがないとき、およびノーベースノータッグのときには審判はジャッジをしません。そしてチームに有利不利となる情報も与えてはならないのです。ただし、このケースのようにフォースプレーで、その後もプレーが連続する場合にはその時点で当該の走者は「アウトではない」ということを示すべきでした。ですから「Off the BAG!」(塁を離れている)と両腕を振ってコールをするのが良かったのではないでしょうか。こうすれば両チームに三塁走者はアウトではない、ただしセーフでもないことを示せます。

 もちろんこういった特殊ケースの場合のルールやマニュアル上の規定はありませんから、球審の自己判断となります。スムーズに試合を進行させる、これもまた審判の重要なテクニックのひとつなのです。

PROFILE
やまざき・なつお●1955年生まれ。新潟県上越市出身。高田高を経て北海道大に進学。野球部でプレーした。卒業後は日刊スポーツ新聞社・東京本社に入社するも野球現場へのあこがれから、プロ野球審判としてグラウンドに立つことを決意。82年にパ・リーグ審判員として採用され、以後29年間で一軍公式戦1451戦に出場。2010年の引退後はNPBの審判技術委員として後進の指導にあたった。現在は講演、執筆活動を中心に活躍する。
よく分かる!ルール教室

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元日本野球規則委員・千葉功による野球ルールコラム。

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