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山崎夏生のルール教室

立て続けにボークをめぐる一幕が 主観が入るからこそ安全策を/元パ・リーグ審判員 山崎夏生に聞く

 

同点で迎える試合終盤という緊迫した場面でのボーク判定にベンチを飛び出した三浦監督。結果として失点につながってしまった


【問】5月31日の日本ハムDeNA戦(エスコンF)ではDeNAの三浦大輔監督が、6月1日のオリックス中日戦(京セラドーム)ではオリックスの中嶋聡監督が、いずれもボークの判定を巡り紛糾したようです。前者は一塁への偽投としてボークを宣告され、後者はセットポジションでの完全静止をしていなかったのではないか、ということでした。ただしボークはリクエストの対象外のため、リプレイ検証はありませんからどうにも納得いきません。審判によりボークを宣告したりしなかったりの基準があいまいなように感じるのですが……?

【答】私が審判になりたてのころ、先輩から「一番難しいのが退場とボークだ」と言われました。いずれも公認野球規則には明確で具体的な記載がないからです。

 例えば危険球退場ならば頭部近辺に投球が当たったか否か、という事実確認をすれば十分なのですが、「裁定に異議を唱えたり、スポーツマンらしくない言動」(8.01.d)の退場に値する言葉や行動などの具体的事例は書かれていません。当人がどう感じたか、周囲からどう見えたか、が判断の基準となります。

 同様に「ボーク」も6.02(a)として13項目4ページにもわたり書かれていますが、不明瞭な点も多いのです。例えば「足を直接その塁の方向に」とは何インチ踏み出せばよいのか、そのステップ角度の許容範囲は何度以内なのか、といった数値はありません。また「不必要に試合を遅延させる」とか「投球に関連する動作」とは何か。あるいは「完全に静止」とは何秒なのか等々、これらはすべて審判の判断に委ねられています。それゆえに個々の基準を完全統一することは無理なのだ、とご承知おきください。もちろん審判団はそのための努力は惜しみませんが、ボークは宣告してもしなくても揉める、これがこのルールの難しさなのです。

 私も現役時代はキャンプの折など、たびたびブルペンでボークについて尋ねられました。すると必ずや監督や投手コーチたちは「これはどうか」「ならばこれはどうか」と、ボークギリギリの境界線を探りにきたものです。それをプロの技術とするならばそれも良しですが、ボークを宣告されるリスクも伴うものだと覚悟してもらいたいのです。全員一致ではなく、一人でもボークと判断すれば成立するのですから。要は誰が見てもボークではない、というプレートマナーを身に付けること、これが一番の安全策です。

PROFILE
やまざき・なつお●1955年生まれ。新潟県上越市出身。高田高を経て北海道大に進学。野球部でプレーした。卒業後は日刊スポーツ新聞社.東京本社に入社するも野球現場へのあこがれから、プロ野球審判としてグラウンドに立つことを決意。82年にパ・リーグ審判員として採用され、以後29年間で一軍公式戦1451戦に出場。2010年の引退後はNPBの審判技術委員として後進の指導にあたった。現在は講演、執筆活動を中心に活躍する。
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元日本野球規則委員・千葉功による野球ルールコラム。

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