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山崎夏生のルール教室

都市対抗で導入された「ビデオ検証」ビジョンに映らない理由とは?/元パ・リーグ審判員 山崎夏生に聞く

 

今夏から都市対抗野球で導入された「ビデオ検証」は、一発勝負の大会で重要な役割を果たす[写真=筆者提供]


【問】今夏の都市対抗ではプロ野球と同様にリプレイ検証が行われるようになりました。ただその仕組みがよく解りません。オーロラビジョンにはそのプレーの映像が流されず、審判団もフィールド内に3人が残っていました。で、結果のみ責任審判(クルーチーフ?)がマイクで放送をし、試合が再開されます。どのような映像を使い、誰が検証をしているのでしょうか?

【答】都市対抗野球観戦は私も毎夏のお楽しみです。キビキビとした試合運び、選手のマナーの良さ、絶対に怠らぬ全力疾走、そして技術の高さはアマチュア野球の最高峰の大会と言っても過言ではないでしょう。応援席の楽しさも格別です。

 で、この新制度ですが、まずは正式には「ビデオ検証」。MLBでは「チャレンジ」、NPBでは「リクエスト」と呼びますが、JABA(日本野球連盟)ではこの呼称で統一しています。そして監督が要請できるのは1試合につき1回のみ。もしも判定が覆れば再度、再々度とできます。延長回に入った場合にはもう1回が認められます。とはいえ、ダメもとで要請すれば貴重な1回の権利を失いかねますから、よほどの勝負どころか微妙なケースでなければ行使しないようです。

 JABA規則・審判委員会委員長の桑原和彦氏によると、まず使われる映像はCS放送局の複数のカメラで各塁のプレーを追い、もちろんスーパースロー再生やコマ送りでの確認もできます。検証するメンバーは当該試合の責任審判、控え審判、試合担当規則委員の3者で、その検証結果のみを責任審判が場内放送します。つまりビデオ検証の場には当該審判は立ち合いませんから、彼らも忌憚のない見解を述べやすいでしょう。

 またNPBと大きく異なるのはその検証映像を観衆に見せないこと。これは当該審判を傷つけない、という思いやりです。もしも明らかにミスジャッジと分かる決定的映像が出れば、当然ですがチームからも観衆からも不信感を抱かれます。実際にNPB現役審判諸兄に聞くと、判定どおりならばドヤ顔もできますが、判定が覆ったときの恥ずかしさはたまったもんじゃないとのこと。まさに公開処刑でさらし者にされたような気分になるそうです。プロは興行ですから、ファンにもその検証映像を共有する喜びや興奮を与えるのもありかもしれませんが、アマチュア野球ならばその判定の正誤のみを伝えれば十分。それ以上に審判に恥をかかせてはならない、という見識には大いに共鳴します。

PROFILE
やまざき・なつお●1955年生まれ。新潟県上越市出身。高田高を経て北海道大に進学。野球部でプレーした。卒業後は日刊スポーツ新聞社.東京本社に入社するも野球現場へのあこがれから、プロ野球審判としてグラウンドに立つことを決意。82年にパ・リーグ審判員として採用され、以後29年間で一軍公式戦1451戦に出場。2010年の引退後はNPBの審判技術委員として後進の指導にあたった。現在は講演、執筆活動を中心に活躍する。
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元日本野球規則委員・千葉功による野球ルールコラム。

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