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山崎夏生のルール教室

一塁へのヘッドスライディング 的確なジャッジをするためには?/元パ・リーグ審判員 山崎夏生に聞く

 

ヘッドスライディングの判定の難しさを物語る写真。左は一見、走者の手がベースに届いているように見えるが、実際はベースと10センチほどの開きがある[写真=筆者提供]


【問】一塁へのヘッドスライディングについてお尋ねします。プロ野球ではあまり見られませんが、高校野球では毎試合のように行われています。判定においては誤審とも思われるケースも見受けられます。なぜでしょうか? ヘッドスライディングをすると審判にも気迫が伝わり、セーフと言ってもらえる確率が高くなる、というのは本当ですか?

【答】それはありえません。審判は常にプレーだけを見ており、気迫などで判定が左右されないのは当然のことです。ただヘッドスライディングをすると選手自身の、あるいはチームの士気を高めるという感覚的効果はあるのでしょう。そして判定が難しくなる、という現実も確かにあります。

 実際には一塁へ駆け抜けるほうが速い、というのは定説ですが、近年の研究では高い技術があればヘッドスライディングのほうが速いという説もあります。ただし手指や最悪の場合には頸椎の損傷などのリスクがあります。世界の盗塁王と称された福本豊(元阪急)氏やイチロー(元マリナーズほか)氏などは絶対にやりませんでした。とはいえ、公認野球規則で禁じられている走塁ではありませんし、すべては自己責任。ここではその判定の難しさの理由と対応策についてお伝えします。

 通常の一塁でのフォースプレーでは審判は送球に対して90度の角度をとり、5〜6メートル離れた位置から見ます。ここから一塁手の触塁と捕球、打者走者の駆け抜ける瞬間を1枚の写真を撮るように視界に収めるのです。あくまで「見る」のが基本ですが、近年は捕球時の音も活用しています。これは相当の練習が必要ですが、現在のNPB審判のほとんどは目と耳の両方を活用し判定しています。ただしこの見方は一塁へ駆け抜けるのが前提です。ヘッドスライディングが厄介なのは、審判の立ち位置がどうしても一塁手の斜め後方となり、塁の高さや土煙などによって手先の届いているポイントが見え難いことです。それが多くの誤審(のように見える)を招く要因でしょう。

 よってヘッドスライディングが想定される場合には新たな位置取りを考えるのも一法です。一つの提案として送球に対してではなく、走者に対して90度、つまり一、二塁間の線上の位置から見るのはどうでしょうか。もちろん併殺のケースでは二塁からの送球ラインに入らぬよう留意します。実際にこの見方を実践し、自信をもって判定できているという報告もあります。高校野球では1試合に何度もあるプレーですから、その備えも必要でしょう。

PROFILE
やまざき・なつお●1955年生まれ。新潟県上越市出身。高田高を経て北海道大に進学。野球部でプレーした。卒業後は日刊スポーツ新聞社.東京本社に入社するも野球現場へのあこがれから、プロ野球審判としてグラウンドに立つことを決意。82年にパ・リーグ審判員として採用され、以後29年間で一軍公式戦1451戦に出場。2010年の引退後はNPBの審判技術委員として後進の指導にあたった。現在は講演、執筆活動を中心に活躍する。
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元日本野球規則委員・千葉功による野球ルールコラム。

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