週刊ベースボールONLINE

山崎夏生のルール教室

徐々に進むロボット審判 導入へのメリット、デメリットとは?/元パ・リーグ審判員 山崎夏生に聞く

 

ABSは99%以上の正確さを求め取り組むNPB審判員たちの残り1%未満を埋める存在であってもらいたい[写真=筆者提供]


【問】2018年以降、プロ野球ではほぼ全プレーがリクエスト制度の対象となり、その結果、判定トラブルが激減したように思います。昨年は危険球以外の退場者はおらず、近年では監督が血相を変えてベンチを飛び出すシーンなどまったく見られなくなりました。それだけ「機械の目」が信頼されているのです。ならば球審のストライク・ボールの判定にも取り入れるべきではないでしょうか? 実際にアメリカのマイナー・リーグや韓国プロ野球では「自動投球判定システム」(ABS:Automatic Ball-Strike System)がすでに採用されていますよね?

【答】最新技術を結集させたカメラを定点に設置し、本塁上にある五角柱のストライクゾーンを認知させるシステムはすでに実用化のレベルにあります。機械の目ですから一貫性もあります。MLBでもNPBでもいずれは採用される日が来るでしょう。それもまた時代の流れです。

 とは言え、現時点ではまだ課題がたくさんあります。まず一貫性はあれども融通性がない、ということ。例えば外角低めいっぱいに投げ込まれ打者が手も足も出なかったような170キロのストレートでも1センチ外れていればボールとなり、すっぽ抜けたワンバウンドのカーブでも本塁最先端部をかすればストライクとなります。要は投球の質を見極めないのです。

 また本塁の幅は432ミリで世界共通なれど、高低のゾーンはすべての打者で違います。打ち気がなく突っ立っているときもあれば、バントの構えをするときも。そして各自のゾーンの初期設定をするのは人の目と感覚なのです。そんな人と機械の目の微調整も必要です。当然ですが、納得のいくシステムにするためには膨大なデータの入力や経費がかかるでしょう。果たしてそれだけの手間暇をかけるだけの実効性があるのか、現時点でははなはだ疑問です。

 よってこのABSは球審の判定をアシストする立場にとどめてもらいたいと願います。全投球に対してではなく、例えば明らかに疑問符の付くような判定に対してのみ打者あるいはバッテリーが確認を求める。その回数制限も、です。

 NPB審判の判定技術はファンからはともかく、現場では高く評価されています。数センチの差を見極めるためにキャンプでは毎日ブルペンでボールを見続け、開幕までに1万球を目標に練習に励んでいます。若手審判によく言ったのはプロの合格点は99点、1試合300球に対しミスは3球までだよ、と。もちろん100点を目指しますが、この欠ける1点だけを埋めるABSとなりますように。投球判定をするからこそ「球審」なのです。

PROFILE
やまざき・なつお●1955年生まれ。新潟県上越市出身。高田高を経て北海道大に進学。野球部でプレーした。卒業後は日刊スポーツ新聞社.東京本社に入社するも野球現場へのあこがれから、プロ野球審判としてグラウンドに立つことを決意。82年にパ・リーグ審判員として採用され、以後29年間で一軍公式戦1451戦に出場。2010年の引退後はNPBの審判技術委員として後進の指導にあたった。現在は講演、執筆活動を中心に活躍する。
よく分かる!ルール教室

よく分かる!ルール教室

元日本野球規則委員・千葉功による野球ルールコラム。

関連情報

みんなのコメント

  • 新着順
  • いいね順

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング