
50年前にパ・リーグ審判員にのみ配布されたDH制に関する小冊子。「大谷ルール」によって一部変更されているがDH制の基礎となった情報だ
【問】年頭のあいさつでNPB榊原定征コミッショナーは「セ・パでルール(DH制度)が違うというのはノーマルな状態ではない」との見解を示しました。また高野連でも昨年12月に設置された「高校野球の諸課題検討会議」において、将来的なDH制度導入を本格的に検討開始したとの報道がありました。審判視点からの解説をお願いします。 【答】最初にDH(指名打者)制度ができたのはもう52年も前のことです。打力の劣る投手ではなく、最強の打者を攻撃陣に加えればもっと試合はスリリングで活発な打撃戦になるだろうとの発想から、1973年にMLBのア・リーグで採用されました。すぐに追随したのが人気低迷中だったNPBのパ・リーグで、それが世界各国の野球界にも波及するようになり、2022年からはMLBナ・リーグも取り入れました。この存在なくして
大谷翔平選手の
日本ハム入団やドジャース移籍はあり得なかったでしょう。今やWBCからオリンピック、プロアマ問わず各カテゴリーの国際試合のすべてがDH制度の下で行われています。
未だに不採用なのはNPBのセ・リーグと2つの大学連盟、高野連です。セ・リーグはその反対理由を「野球の伝統をくつがえす・投手の交代や代打戦術の面白みを無くす・投手も攻撃に参加すべき」等々の9箇条で示しました。高野連はますます強豪校と弱小校の戦力格差が広がることを危惧しているようです。もちろんそういったデメリットも否定はしませんが、それを上回るメリットがあるように思います。
まずDHでの出場枠が1人増え、より多くの選手にチャンスが与えられます。攻守走すべてに秀でる選手などそうはいません。守備に難点がある、足が遅い、でも打撃ならば得意、という特性が生かされます。同一ポジションでも救われるし、DH専任ならば守備の負担が減り選手寿命も延びます。その恩恵にあずかったパ・リーグ在籍者はたくさんいます。
また、投手は自軍の攻撃時にはベンチで存分に休めますし、死球や走塁でのケガのリスクもありません。好投しながらもやむなき代打での交代もなく、最大限のパフォーマンスを発揮できます。それを迎え撃つDHの攻撃力と相まって投打ともにレベルアップすれば、まさに「百利あって一害なし」と思えるのです。
そして忘れてならないのが、このルールは強制ではなく任意ということ。相手がDH制でも9人で戦っていいし、「大谷ルール」(5.11b)により先発投手は降板後もDHとして継続出場できます。さて、現場の選手やファンの望む野球はどちらでしょうか。
PROFILE やまざき・なつお●1955年生まれ。新潟県上越市出身。高田高を経て北海道大に進学。野球部でプレーした。卒業後は日刊スポーツ新聞社・東京本社に入社するも野球現場へのあこがれから、プロ野球審判としてグラウンドに立つことを決意。82年にパ・リーグ審判員として採用され、以後29年間で一軍公式戦1451戦に出場。2010年の引退後はNPBの審判技術委員として後進の指導にあたった。現在は講演、執筆活動を中心に活躍する。