
2025年版の公認野球規則。全規則が掲載されているだけではなく、改正されたルールがまとめられていている。審判員であれば、冒頭の『はしがき』は一読していただきたい。
【問】昨年11月18日付で今季の改正ルールがNPBやBFJ(全日本野球協会)のホームページに掲載されていますが、18項目もあるのですね。今季の最重要な変更点をご教示ください。また、それらを覚えるための「2025年版・公認野球規則」が入手できません。昨年版ならばネット書店で購入できるようですが、今季のものはいつ発売されますか? 【答】まず今季の改正ルールですが、ご安心ください。18項目で7ページにもわたり書かれていますが、審判として覚えるべきプレーイングルールはわずか2項目です。
[1]イニングの初めに準備投球を行った投手は、少なくともそのときの第1打者(またはその代打者)がアウトになるか一塁に達するまで投球する義務がある(5.10.g.2)。昨季までは代打が出れば交代できました。
[2]投手交代を伴わないマウンドに行くことは、9イニングにつき1チームあたり4回に限られる(5.10.m.1)。昨季までは3回でした。
その他の項目は試合管理人(主催者)や球場施設管理者や用具メーカー、MLB公式戦にのみ適用されるルールです。そして「所属する団体の規定に従う」と書かれている項目はすべて「内規」ですから、「公認野球規則」よりも優先されます。
ここ数年、話題になっているピッチクロックや極端なシフトの禁止、ベースの拡大、投手のワンポイント起用の禁止等々は今季も「我が国では適用しない」です。近年、このように日米間のルールの乖離が甚だしくなっていますが、「アメリカ第一主義」でなくてよいのです。国際試合になったらその大会主催者の規定に従うのみ、そういった対応力も実力のうちでしょう。
さて、新しい規則書を入手したらまず読んでもらいたいのが冒頭にある「はしがき」。これは1956年に初めてプロアマ共通の公認野球規則が編纂されたときから書き続けられています。初代執筆者はそのために尽力した鈴木美嶺氏で、この功績により野球殿堂入りもしています。氏はこの「はしがき」を1990年まで書き続け、以後はプロアマ混成の野球規則委員会の一人に委ねられています。これはいわば規則委員会の年頭の所信表明と決意を述べる場であり、読むたびに背筋が伸びるような気がします。
発行部数は推定で3~5万部ほどという隠れたベストセラー。NPBでは全審判員と公式記録員、そして各球団に100~150部ほど、BFJからは各団体の審判員や関係者、マスコミ各社に配布されます。長らく非売品でしたが、2006年からようやく一般販売もされるようになりました。私のような無所属の「流しの審判」にとってはつらいですね。
PROFILE やまざき・なつお●1955年生まれ。新潟県上越市出身。高田高を経て北海道大に進学。野球部でプレーした。卒業後は日刊スポーツ新聞社・東京本社に入社するも野球現場へのあこがれから、プロ野球審判としてグラウンドに立つことを決意。82年にパ・リーグ審判員として採用され、以後29年間で一軍公式戦1451戦に出場。2010年の引退後はNPBの審判技術委員として後進の指導にあたった。現在は講演、執筆活動を中心に活躍する。