
MLBのジャイアンツとロッキーズの試合におけるABSチャレンジ審査中の様子。バックスクリーンにストライクゾーンと投球コースが映し出される[写真=Getty Images]
【問】MLBのキャンプ地での実戦練習やオープン戦ではいよいよロボット球審が登場し、話題を集めています。以前に当欄(第61回)でこのシステムの問題点を指摘していましたが、その後の進捗状況はいかがでしょうか? 賛否両論ありますが、もしもMLBで採用されればNPBでも、そして広くアマチュア球界にも浸透するのでしょうか? 【答】まずは簡単なロボット球審の説明から。正式にはABS(Automated Ball-Strike System)と呼ばれる自動投球判定のことです。最新技術を結集したカメラを定点に置き、本塁上にある五角柱のストライクゾーンを認知させるのです。機械の目ですから精度は抜群で一貫性もあるでしょう。とにかく投球がそのゾーン内を通過するか否か、それだけが判断基準です。
その方式にも2通りあります。一つは昨季から採用しているKBO(韓国プロ野球)のように全投球に対して行うもの。球審にイヤホンを装着させ、ABSの指示どおりに
コールをさせます。不測の事態に備え、三塁審判にも装着させています。よって投球判定に関しては機械の目に全権委任で、球審はただの伝達役となるだけ。ほかの塁審と同様に本塁上で起こるプレーを裁くのみとなります。
もう一つは今季のMLBのオープン戦で試されていた球審のアシスト役。納得のいかない判定に対して投手・捕手・打者のみが球審に意思表示をし、確認を求めます。この権利は1試合につき各チーム2回ですが、判定が覆れば減りません。おおむね好評のようですから、来季からのMLB公式戦で採用される可能性は高いでしょう。
実際に
ダルビッシュ有投手(パドレス)は球審にストライクと判定されながらも、わずか1.7センチ外れていたとボールに覆り苦笑い。ほかにも見逃し三振のはずが四球となり、そこからビッグイニングとなった試合もありましたし、その逆も然り。このようにたった1球でも試合の流れが大きく変わるのですから、選手やファンがより正確な判定を求めるのも仕方のないことかもしれません。
かつてMLB審判にストライクゾーンを尋ねると「俺の右腕だ。これが上がればストライクで、上がらなけりゃボールさ」と自信満々に答えてくれました。NPB審判もキャンプ中にはボール半個の差を見極めるために何千球もの練習をこなしています。そんな責任もプライドも努力も不要で、「球審」ではなく「本審」(本塁の審判)と呼ばれる日が間違いなく来ます。「審判の権威」も「ミスジャッジ」も死語となり、プロ審判は誰にでもできる仕事になるかもしれません。設備や費用の問題をクリアできればアマチュア野球にも波及するはず。こんな野球が面白い……んですよね?
PROFILE やまざき・なつお●1955年生まれ。新潟県上越市出身。高田高を経て北海道大に進学。野球部でプレーした。卒業後は日刊スポーツ新聞社・東京本社に入社するも野球現場へのあこがれから、プロ野球審判としてグラウンドに立つことを決意。82年にパ・リーグ審判員として採用され、以後29年間で一軍公式戦1451戦に出場。2010年の引退後はNPBの審判技術委員として後進の指導にあたった。現在は講演、執筆活動を中心に活躍する。