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山崎夏生のルール教室

内規の存在によって生まれたT.バウアーのボーク/元パ・リーグ審判員 山崎夏生に聞く

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走者がいない場合はこの全ての足の置き方からワインドアップで投球ができるが、走者がいる場合は[6]~[8]の置き方はセットポジションとみなされる。今回のバウアーは[8]から足を引き、ワインドアップで投じたため投球動作の変更でボークとなった


【問】3月9日のオリックスDeNA戦(京セラドーム)のオープン戦ではT.バウアー投手(DeNA)がボーク判定に激怒するというシーンが見られました。二死三塁からの投球で、セットポジションからワインドアップに投球動作の変更をしたという説明でした。ただ、バウアー投手は投球前に球審にワインドアップで投げると申告していたので「Why?」となったようです。日米でルールが違うのですか?

【答】オープン戦では珍しいトラブルでしたね。この件に関しては多くのメディアでも報じられているように、審判団のボーク判定に全く問題はありません。

 まず、投手の軸足と踏み出す足の位置関係ですが、図説をご覧ください。「公認野球規則」に載っているものですが、走者がいないときにはこの全ての置き方からワインドアップ投球ができます。ただし走者がいるときには下段右側3例の置き方はセットポジションとみなされます。「塁に走者がいるときに、投手が投手板に軸足を平行に触れ、なおかつ自由な足を投手板の前方に置いた場合には、この投手はセットポジションで投球するものとみなされる」(5.07.a.2・原注)。

 ここで問題なのは、「Why?」となった理由です。実は公認野球規則に省略されている条文が「OBR」(Official Baseball Rules)には書かれているのです。この項の続きとして「ただし、この状況下でワインドアップから投球することを、打者が打席に入る前に審判に申告すればこの限りではない」(英字原文省略)と。つまりバウアー投手は「投球前に球審に申告したのに?」というわけです。「知らなかった」のではなく、「知り過ぎていた」とも言えます。

 かつては公認野球規則=OBRという認識でしたが、近年はその乖離が大きくなり、「我が国では適用しない」という条項が多くなりました。これもその一例でしょう。ここで大切なのは「郷に入らば郷に従え」という言葉。何よりも優先されるのが「内規」(アグリーメント)であり、それぞれの国や連盟には独自の規定があります。自分のプレーするカテゴリーでの内規を熟知し、それに従うことは選手の義務でもあります。例えば日本人選手がNPBではこうだと主張してもMLBでは相手にされませんし、逆も然り。こういった確認はキャンプ中に済ませておくべき事項です。厳しい言い方ですが、いかにオープン戦と言えどその場での注意にとどめる、ということはできないのです。

PROFILE
やまざき・なつお●1955年生まれ。新潟県上越市出身。高田高を経て北海道大に進学。野球部でプレーした。卒業後は日刊スポーツ新聞社・東京本社に入社するも野球現場へのあこがれから、プロ野球審判としてグラウンドに立つことを決意。82年にパ・リーグ審判員として採用され、以後29年間で一軍公式戦1451戦に出場。2010年の引退後はNPBの審判技術委員として後進の指導にあたった。現在は講演、執筆活動を中心に活躍する。

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元日本野球規則委員・千葉功による野球ルールコラム。

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