
公認野球規則の8.01[c]によって、自己の裁量に基づいて裁定を下した場合、その判定が以降の前例となってしまうため、慎重な判断、裁定、運用が求められる
【問】とある地区の、甲子園を目指す準決勝での判定トラブルです。状況は二死二、三塁で打者は二遊間にゴロを打ちました。その打球を処理しようと猛然とダッシュした遊撃手がなんと二塁審判と衝突してしまったのです。その結果、打者をアウトにできず三塁走者は生還し、二死一、三塁となりました。ここで審判団は協議し、審判の妨害としてボールデッド、二死満塁での試合再開と場内放送しました。ところがここで本部席からの指示で再協議し、当初の判定どおりの処置となりました。むしろ審判の妨害として打者アウトのチェンジにすべきではないですか? 【答】審判の守備妨害は二つしかありません。球審が捕手の送球動作を妨げた時、内野手を通過する前の打球に塁審が当たった時のみです(6.01.f・原注)。これ以外は嫌いな言葉ですが、審判はフィールド内の「石ころ」と同様に扱われ、野手や走者、打球や送球に当たろうともすべてが「ナッシング」(成り行き)。審判は守備妨害や走塁妨害をしない、という前提の上でルールが成り立っているからです。
ならば守備行為にある野手が審判に衝突したならば、特殊ケースとして8.01(c)に書かれている「自己の裁量に基づいて、裁定を下」してもよいのではないかとの意見もあるでしょう。しかしルールとは「前例」の集大成であり、一度でも適用すれば以後に普遍性を持たせなければなりません。その場で勝手に変えることはできず、手順を踏む必要があります。高野連の内規、あるいは公認野球規則の改正ならばプロアマ合同の規則委員会で論議をし、そのうえで決定されるべきです。通常の試合で起こりうるプレーの99%以上はすでに公認野球規則内に書かれており、8.01(c)を適用するのは相当のレアケース。私の44年間の審判キャリアでも未適用でした。
よって今回のケースでは守備側にとっては不運だったかもしれませんが、最終判断の「ナッシング」が正解となります。
ちなみに一昨年8月の
DeNA対
阪神戦で、送球を受けた野手の足が故意ではなく塁をふさいでしまい、タイミングはセーフながらアウトと宣告せざるを得ないプレーがありました。これはいかに不可抗力とはいえ攻撃側に大きな不利益をもたらすのではないかと問題提起され、NPB理事会・実行委員会での審議を経て「ブロッキング・ベース」とし、アウトにはしないという内規が2週間後にできました(
第36回参照)。今回のプレーも今後に頻出するようならば、論議の対象となるでしょう。
PROFILE やまざき・なつお●1955年生まれ。新潟県上越市出身。高田高を経て北海道大に進学。野球部でプレーした。卒業後は日刊スポーツ新聞社・東京本社に入社するも野球現場へのあこがれから、プロ野球審判としてグラウンドに立つことを決意。82年にパ・リーグ審判員として採用され、以後29年間で一軍公式戦1451戦に出場。2010年の引退後はNPBの審判技術委員として後進の指導にあたった。現在は講演、執筆活動を中心に活躍する。