6月11日発売の週刊ベースボールでは毎年好評の「変化球特集」の企画を組んだ。スライダー、フォーク、シュート……。
各球種をプロの第一人者が操り方の真髄をレクチャーしてくれる。もしかしたらプロレベルの『魔球』を投げられるかもしれない。そんな期待を抱いてしまう。本当に野球好きにとってはたまらない企画なのだろう。
ただ、魔球はそう簡単に投げられるものではない。プロでも最高レベルに達する変化球を投げる投手はそうはいない。その魔球とは一体何だろうか。
その定義の一つに確実に狙われていながらも、打者を牛耳ってしまう変化球ということが挙げられるだろう。1992年、
西武対
ヤクルトの日本シリーズ。ヤクルトベンチで戦況を見詰めていた
荒木大輔氏は「分かっていても打てないんだよなあ」という打者の声を耳にした。
マウンドにいたのは同年、シーズンで27試合に登板し、15勝3敗3セーブと抜群の成績を挙げていた
石井丈裕。当然、このスキのない投手をヤクルトは徹底的に分析、
伊東勤捕手のリードも丸裸にして頂上決戦に臨んでいた。
だが、必ずスライダーが投じられるという配球の傾向が出ている場面で、もちろん打者はそれを狙っていくのだが、とらえることができない。打者の想像以上のキレを誇っていたのだろう。この日本シリーズで2勝をマークした石井はMVPを獲得し、沢村賞も受賞。早実の同級生でもあった石井のスライダーを、荒木氏は自身が見てきた中で最高の変化球の一つに挙げる。
ちなみに打席で荒木氏がすさまじいキレを感じたのは
郭泰源(西武)のスライダー、シュート。キレ味が鋭く、まったく手を出すことができなかったということだ。(編集長・小林)