2週理屈っぽい原稿が続いたので、今週は、読者にリ
ラックスしてもらう週にしましょう。題して「プロ野球 言葉の珍プレー、好プレー」。
多分、「オイ、それどこかで読んだぞ、聞いたぞ」という人もいるでしょうが、若い読者には初めての話もあるでしょうから、箸休めに気楽につまんでください。
筆者は
千葉茂さん(元
巨人)と
豊田泰光さん(元西鉄ほか)と、ともに20年以上お付き合いさせてもらうという幸運に恵まれたが、このお2人は、プロ野球人の中でも指折りの“言葉のマジシャン”。で、ここにもたびたび登場していただいている。「また千葉と豊田かよ」と食傷気味の人もいるかもしれませんが、とにかく面白いのだから仕方がない。今週も、このお2人から。
筆者は、プロ、アマ、数えきれないほどの野球人に出会ってきたが、千葉さんほど芸術家の友人が多い野球人をほかに知らない。例えば「芸術は爆発だ!」の画家の岡本太郎さん、「砂の女」「他人の顔」などの名作を生み出した映画監督の勅使原宏さん(父は草月流の総帥・蒼風)。あの有名な近鉄のシンボルマークは、千葉、岡本、勅使河原の鳩首会議で決まったそうな。
そんな千葉さんだから、頭の中は、野球より「芸術家」のときがある。筆者が「これぞ千葉さん!」と思う一句がある。それは「打たれたか積乱雲に球速く」。ウソかホントか知らないが、ある夏の東急戦(もちろん1リーグ時代)で、
大下弘の打球が千葉二塁手のはるか上を飛んで、そのままスタンドに入った。そのとき、この句がフッと浮かんだのだそうだ。
「そんな余裕あったんですか。それに、大下さんの打球なら『球速く』ではなく『球高く』じゃないですか?」と半畳を入れると「それだから素人は困る。『高く』はすでに『積乱雲』でよみ込み済み。だからダブリを避けて『速く』でいいのや。それにワシの頭を越したときの打球はとてつもないスピードだったのだから」。
どうです?こういう返しの見事さは。俳号を5つも持っている人だから、この程度のツッコミではかたはら痛いワイ、だったのだ。「ワシは二塁手やない。一、二塁手や」というセリフも記憶に残っている。
川上哲治一塁手の守備があまりに下手なので、千葉さんはこう皮肉ったのである。

この欄ではおなじみの千葉茂。郷里・松山の生んだ俳人・正岡子規を尊敬し、5つも俳号を待っていた
千葉さんで行数を取り過ぎた。豊田さんに移ろう。
「三原(脩西鉄監督)さん?オレには単なる通行人だよ」。豊田さんが、三原さんを野球人として最も尊敬しているのは、だれでも知っていること。その人からこのセリフを聞いたときは、ドキッとしたが、すぐに「ああ、これが豊田泰光なんだな」と得心がいった。恩師に対してこう言える男のみが、プロ野球の歴史にその名を残すのである。
「どうあがいても追いつけない人」と考えているうちは、恩師の掌から飛び出せない。「どこか1点でもいいから、この人を超え、突き破らないと自立できない」と考える人が、恩師から卒業できるのだ。
豊田語録で一番気に入っているのは次のセリフ。「それまでセピア色だったプロ野球が、長嶋(茂雄氏)が巨人に入ったことでカラーの世界に変わった」。お見事!の一語だ。
お2人だけで紙数が尽きてしまいそうだが、千葉(19年生)、豊田(35年生)のちょうど中間の世代の27年生まれの
関根潤三さん(元近鉄ほか)のオトボケで最後を締めましょう。
「私は野球をやっている間、深刻になったことがないんです。投手がダメになったので、さっさと打者に転向(57年)。『打者ならやはりクリーンアップを打たせてくれ』と要求したら五番打者で先発出場。で、すぐ打撃10傑(.284で9位)。62年には3割打者。恵まれてましたねえ」。実は、この陰には恐ろしいほどの努力があったのだが。