捕手としてプロ野球を駆け抜けた嶋基宏は今、コーチとしてすでに第二の人生を歩んでいる。多くの人に感動を届けた16年の現役生活を振り返った。 取材・構成=小林篤 写真=榎本郁也、BBM 
嶋基宏
毎日練習、毎日勉強
16年間プレーできたことの一因に「分岐点で素晴らしい人たちに巡り合えたこと」を挙げた。国学院大時代に竹田利秋監督の下で捕手に転向し、ここから未来が開けた。楽天に入団すると名将・野村克也監督の下で3年間、捕手のイロハを徹底的にたたき込まれ、球界を代表する捕手へと成長していった。しかし、そんな中でも嶋は常に不安と戦っていた。 ──引退試合から1カ月以上が経過しましたが、日々の生活で引退を実感する出来事などはありますか。
嶋 まず朝起きて、体に痛いところがないかの確認をしなくてよくなりました。現役時代は毎日「今日はここがおかしいな」とか、常に変化を考えるようにしていたのですが、それをする必要がなくなりました。あとは手のマメが少しずつ消えてきたことですかね。
──楽天と
ヤクルトで16年の現役生活を過ごしました。2007年、楽天へ入団した当初の思い出を教えてください。
嶋 楽天がまだ創設3年目でしたので、チーム内はベテランの方が多かったんです。なので、最初は年が離れた方とプレーをするのが不思議な感覚でしたね。あとはプロの投手のスピードについていけるのだろうかと、そういった不安も多かったですね。
──その不安の中で、1年目から開幕一軍をつかみ、125試合に出場。「プロの世界でやっていける!」と自信もついたのではないですか。
嶋 いや、何年たっても自信はなかったですね。不安のほうが大きかったです。でも、その不安を少しでも解消するために毎日練習をしたり、勉強したりということを積み重ねてきたので。
──正捕手への道を駆け上がりながら09年には初めてAクラス入り(2位)を果たしますが、チームは思うような成績が残せないシーズンも多かったです。
嶋 楽天ではBクラスにいることのほうが多かったですからね(在籍13年でBクラス9度)。一つ勝つことの大変さはありました。また、当たり前のことですが、最後まであきらめない姿勢というのも学びました。一つ勝つことの大変さを知りながら勝つというのは、勝って当たり前のプレッシャーを背負いながら勝つときと同じくらいうれしかった感じはありました。
──一つ勝つ大変さを感じるなかでプロ7年目の13年、球団創設初のリーグ優勝、日本一を達成しました。楽天時代の特に大きな思い出だと思います。
嶋 Bクラスばかりだったチームがリーグ優勝して日本一も達成した。その前に東日本大震災があって、何とか良いところを見せたいとか、なんとか復興の力になりたいと思ってやってきていましたので。そういう中で13年のリーグ優勝、日本一で皆さんの喜んでいる姿を見て、やってきてよかったなというのは思いました。
──引退会見では、東日本大震災を機に、野球に対する向き合い方が変わったともおっしゃっていました。
嶋 これまではお金を稼ぎたいとか有名になりたいとか、プロ野球選手であればいい車に乗りたいとか、そういう自分のために頑張ってきていたんですけど・・・
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