第37回 求められる時代に合った方法論 
甲子園決勝で再試合も投げ抜いて優勝した早実・斎藤。しかし、負担が大きいため投手の未来を考えると疑問符が付く(写真=BBM)
高野連が延長タイブレーク制導入を検討 日本高等学校野球連盟(高野連)が、春夏の甲子園大会での延長タイブレーク制度の導入を検討している。
タイブレークとは時間制限のない競技で、早期決着のための方式。野球の場合、無死一、二塁などの設定で点が動きやすくする特別ルールだ。
今春のセンバツ大会で、2回戦の
広島新庄と桐生第一が引き分け再試合となった。雨天順延も重なって休養日がなくなり、5連戦の可能性が浮上。特に投手の健康管理対策の観点から、高野連が投球回数や球数制限などとともに是非を問うことになった。
高野連は全国の加盟校を対象にアンケートを実施し、8月末までに意見を集約。アンケートを基に議論を重ね、11月の理事会での結論を目指している。
甲子園の延長戦は、数々のドラマを生んだ。1969年夏決勝の松山商対三沢は延長18回0対0のまま引き分けとなり、再試合で松山商が勝利。98年には、
松坂大輔(現メッツ)を擁した横浜が準々決勝でPL学園を延長17回で破り春夏連覇を達成。06年夏には、
斎藤佑樹(現
日本ハム)の早実と
田中将大(現ヤンキース)の駒大苫小牧が延長15回の末に勝負がつかず、再試合で早実が優勝。歴史を紐解けば、延長戦はさまざまな熱戦を演出している。
ファンにとって甲子園は、かけがえのない魅力を持つ〝特別な大会〟だ。延長戦もその一部で、タイブレークが導入されれば野球が変わり、伝統の甲子園でなくなるという意見も多い。ただ、取り巻く環境を見れば、単純に「反対」とは言えない。
近年の温暖化による気温上昇の影響もあるのか、特に夏の大会中に熱中症の症状を見せる選手が増えた。国際野球連盟(IBAF)が主催する大会をはじめ、北京五輪やワールド・ベースボール・クラシック(WBC)ではタイブレークを実施。野球の国際化という意味合いでは、タイブレーク導入も自然な流れではある。
滅私奉公や根性論だけでは通用しない 右ヒジ内側側副靱帯の部分断裂で戦列を離れた田中のアクシデントは、関係者に衝撃を与えた。昨年の日本シリーズ(
楽天対
巨人)では第6戦(Kスタ宮城)で160球を投げ、翌第7戦で15球を投げる連投。厳格な投球数制限をしているメジャーから「考えられない」と非難の声が上がった。
昨年のセンバツでは済美の
安樂智大が3連投を含め、5試合で772球を投じた。安樂は秋に右ヒジを痛め、日本の高校、プロを含めた球界の健康管理への議論が巻き起こった。田中の日本シリーズでの登板に疑問を呈したダルビッシュは最近、甲子園での登板についてもツイッターで言及。「1年5回、2年6回、3年7回という感じで、学年別の投球回数を決めればいい」という持論を展開している。
ヒジ痛でトミー・ジョン手術(腱移植手術)がここ近年急増するなど、アメリカでも投手の健康管理に対する意識が高まっている。メジャー・リーグ機構(MLB)では、登板間隔や球数制限の妥当性をもう一度洗い出すとともに、ボールやマウンドの特性などさまざまな角度からの原因究明に乗り出している。さらにMLBでは、日本野球機構(NPB)を通じて日本の統一球を購入。滑りやすいとされるメジャーの公認球との違いを研究している。
NPBの熊﨑勝彦コミッショナーは現地時間7月15日、メジャーのオールスター・ゲームを視察した際、MLBのロブ・マンフレッド最高執行責任者(COO)と会談。故障多発の状況を受け、日米で情報を共有し、対策をすることを決めた。「エースの一人や二人つぶしていないと、名監督とは言われない」と言われた時代もある。だが、滅私奉公や根性論だけでは通用しない世の中となった。科学的な裏付けをもって、球界全体が選手個々人のケアに努めることが大事だろう。