日本のドラフト制度は、時代に呼応しながら形を変えた独自のルールだ。数年後を見据えた育成前提のメジャー・リーグ機構(MLB)の完全ウエーバーによるドラフトとは違い、日本では一握りの即戦力を奪い合うのが主な目的。それゆえ、逆指名が採用されるなどの試行錯誤を重ね、上位選手が競合した場合は抽選という独自の変則ルールに落ち着いている。
複数球団の指名重複による抽選が介在するドラフトは、過去にさまざまなドラマを生んできた。「運命の日」と言われるように、特に選手にとっては、自らの野球人生の大きな岐路となる。戦力均衡化による盛り上がり、契約金等の高騰化の防止という意味では、球界全体に必要な“レギュレーション(規制)”とも言える。だが、憲法でも定められている「職業選択の自由」の観点から見れば異質なルールととらえられても仕方ない。
現行ルールがベストなのか。それともシンプルな完全ウエーバー制に移行すべきなのか。
「球団の企業努力に任せて自由競争にして、ドラフトは撤廃すべき」
「完全ウエーバー制で公平を期すべき」
「妥協の産物ではあるが、現在のような折衷案が最もフェアなルール」
と球団によって切り口が異なるさまざまな意見があるように、単純に是非は論じられない。ドラフト制だけにとどまらず、多元的、包括的に議論を重ねていくことが大事だろう。
労組日本プロ野球選手会(
嶋基宏会長=
楽天)は、一貫として「移籍のチャンスを広げ、球界の活性化を図ることが大事」と主張している。その具体案がフリーエージェント(FA)権の資格取得期間の短縮だ。活性化という意味では、一線級の戦力が移動するFAという制度が最も効果が大きい。現在、国内の移籍が可能となる資格取得期間は8年、海外も含めると9年と規定。選手会はこれを7年に短縮してほしいと要求している。ちなみにMLBでは、6年で取得可能。完全ウエーバーによる入団とセットのルールとして考えれば、決して短い年数ではない。
巨人からFAの人的補償で2013年オフに
広島に移籍し、今季、貴重な中継ぎとして頭角を現した
一岡竜司のケースがある。双方向の移籍として見れば、FAをもっと活用してもいい。ある球界関係者は「人的補償の人数を1人だけでなく2人とするなど、柔軟性があってもいい」と提案。FAの人的補償の場合、プロテクトが28人とそれなりの戦力が獲得できる。選手に移籍された球団は、「もっと見返りがあってもいい」という声を上げてもいい。

▲球界を活性化させるためにドラフトを完全ウエーバーにし、FA権取得年数を短縮する方法もある。そうすれば今年、人的補償で広島に加入した一岡のように埋もれている選手が脚光を浴びることも増えるだろう[写真=佐藤真一]
日本ではFA期間の短縮は各球団の反発もあって改定が難しいが、並行して活性化のための別の手段も考えるべきだろう。MLBでは年末、マイナー・リーグ選手を獲得するための「ルール・ファイブ・ドラフト」を行っている。これはあるレベルでの活性化は見込めるが、一線級の移動ではないため、球界全体の戦力均衡までにはつながらない。
例えば、7月末までと定めているトレード期間を拡大するなどの見直しも議論されていい。ある一定の一軍公式戦出場数に満たないファームの選手に限り、シーズン終盤までトレード可能としてはどうだろうか。各球団ともクライマックスシリーズ(CS)や日本シリーズのために、くすぶっている戦力を探そうとするだろうし、ファームの選手も腐っている場合ではなくなる。今後もドラフト制を戦力確保の軸とするならば、プロに入る者も入っている者も不公平感がなくなる新たな方策の検討が必要だ。