スピードは努力して手に入れることはできない天性の潜在能力だ。50メートル5秒8を誇るトップアスリートは、攻守にわたりキレのある動きを見せる。好不調の波が少ないとされる、守りと足で勝負できる器がある。 取材・文=坂本匠、写真=小山真司 
50メートル5秒8の俊足を生かした守備範囲の広い守りと、積極走塁が武器。打撃にさらなる磨きがかかれば、プロも完全に視界に入ってくるだろう
国際試合で貴重な万能タイプの選手
登録は174センチ67キロと小柄な部類に入るが、数字以上のスケール感がある。それは50メートル5秒8を誇るスピードにほかならない。攻守にわたり、全身がバネのような軽快な動きを見せる。2歳から小学校3年時まで器械体操(床、鉄棒)をしていた影響による柔軟性が野球にも生きている。「走塁面と打撃を含めて、積極的な打撃を心がけています」。昨年は大学日本代表に選出され、侍ジャパンとしてハーレム大会(オランダ)に出場した。本職は遊撃手だが、メンバーが22~24人と限られる国際試合では、複数ポジションが重宝され、求められる。内野ならどこでも守れ、展開によっては外野でもスタンバイする万能型。今夏のユニバーシアード(韓国・光州)でも、悲願の金メダル奪取には欠かせないユーティリティープレーヤーだ。
キャンプメンバーからも外れた不遇の時間
順風満帆に見える野球人生も、実は絶望の淵から這い上がってきた。山足は一度、野球をあきためかけたことがある。エリート街道を歩んできた。蹉だ中時代に在籍したオール枚方ボーイズでは全国大会を制し、ジャイアンツカップに出場。名門・大阪桐蔭高では1年秋から左翼の定位置をつかむと、同級生の
西田直斗(現
阪神)らと、2年春のセンバツで甲子園の土を踏んでいる。遊撃手のレギュラーだった3年夏は、府大会決勝(対東大阪大柏原高)で6回まで6対2とリードを奪いながら、9回に悪夢のサヨナラ負け(6対7)。「勝つ難しさを知った……」(山足)。1学年下には
藤浪晋太郎(現阪神)がおり、この屈辱の黒星を糧として、翌年には史上7校目の春夏連覇へつなげたのは、あまりにも有名な話だ。
高校通算20本塁打。関西学生リーグの伝統校・立命大では“スーパールーキー”として、順調なスタートを切っている。1年春の開幕戦(対関大)では「三番・二塁」で先発出場。当時4年生の
金子侑司(現埼玉
西武)と二遊間を組んだ。しかし、この大学デビュー戦は4打数無安打。その後も結果を残せず、このシーズン、10打数ノーヒットで終えている。1年秋も2打数無安打。2年春の同立戦では4安打。19打数8安打、打率.421と飛躍のきっかけをつかんだかに見えたが、現実は甘くない。同秋は8打数無安打と再び、打撃不振に陥りベンチから外れてしまう。ベンチ入りメンバーのAチームからも漏れ、50人が選抜されるキャンプにも呼ばれない。合宿所での残留組練習で、腐りかけていたのが事実だ。
「正直、向上心がなかった。2年春に少しだけ結果を残すことができましたが、自信はありませんでした」
モチベーションが完全に沈んでいた状況を、関係者から伝え聞いた大阪桐蔭高・西谷浩一監督は山足に電話したという。「お前には・・・
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