固定なき布陣でパ・リーグ3連覇。巧みな選手起用は、合言葉『全員で勝つ!!』を象徴するものだ。むろん、全員には監督・コーチも含まれる。毎年、新たな戦力が台頭するオリックス投手陣。飛躍の根底には周囲の眼と声、そして確かな意識付けがある。 取材・構成=鶴田成秀 写真=佐藤真一、BBM 
言葉のチョイスや声を掛けるタイミングを選手に応じて変えるのは、伝えることよりも、『受け取ってほしい』の思いを持つからこそ
選手自身で養う見る目と読む力
コーチの語源は『目的地に導くこと』。求められる役割は“教える”ことではない。2021年まで日本ハム、22年からオリックスで投手コーチを務める厚澤和幸コーチの思いは、コーチの語源そのものだ。ブルペンを束ねる男は、勝利という目的へ導くために頭を働かせる。 『選手のためになっているのか』。指導のベースはここに尽きます。何を伝えるにしても自分本位ではダメ。だからアプローチの仕方も選手によって変えないといけません。一方通行の指導でいいのであれば、アプローチの仕方を変える必要なんてない。どの選手に対しても同じ指導を行ってしまえば、それは『教える』のではく『押し付ける』ことになってしまいます。選手のことを考えるということは、伝えるためにまず『聞く耳を持ってもらうこと』が大事。そう考えれば選手によってアプローチの仕方が自然と変わっていくんです。
伝えるタイミングだって吟味します。朝なのか昼なのか、それとも夜なのか──。それ以前に試合直後なのか、翌日なのか。タイミングも選手に応じる必要があるんです。熱くなりやすいタイプであれば、試合直後に声を掛けても頭に血が上っているため、こちらがいくら声を掛けても頭に入ってこないでしょう。熱いタイプは責任感も強いので、寝る前に自分の投球を思い返すことも多い。そこで、ようやく冷静になったりする。であれば、時間を空け、翌日以降に話す必要があるんですよね。反対に試合で打たれた直後でも冷静でいられるタイプであれば、試合後に話をすることもある。性格を見極める必要があるのは、伝えることが目的ではなく、僕らの声を『受け取ってほしい』から。それは『選手のためになってほしい』からなんです。
2022年からオリックスのコーチとなり、ブルペンを担当させていただく中で、試合は育成よりも『勝つこと』が大前提です。ただ、その中でも『選手のため』を意識することは忘れません。ブルペン担当コーチの大きな役割は、救援投手に準備を促すことです。いつ、どのタイミングで継投に入るかは試合展開次第。とはいえ、先発投手が崩れてから準備を始めていては当然、遅いわけです。いかに試合展開を読み、チームとしての“ベンチワーク”をスムーズにさせるか。これがブルペン担当の私の大きな仕事であり、やりがいを感じる部分です。では、どのように準備を促すのか──。
そもそも野球は流れのスポーツ。ブルペンに置かれたモニターに映し出される試合を見て展開を読み、流れが変わるポイントをいち早く気が付くことが大事になります。ここを見誤ると、準備が遅れるわけです。
何を見て判断するのか。試合は生き物なので一概に『これ』という答えはなく、その時々で見るポイントは変わっていきますが、一つの例を挙げれば・・・
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