
日米野球でMVPを獲得した柳田。長嶋茂雄を彷彿とさせる「空振りでもゼニがとれる」貴重なスター候補だ
底知れぬ身体能力を生かしたダイナミックなプレー。今季、最も成長を果たした男の一人と言える柳田悠岐は、メジャー・リーグ相手にも、その力を存分に発揮した。見事に日米野球MVPも獲得。走攻守に魅力あふれる背番号44とは――。 文=田尻耕太郎、写真=早浪章弘 メジャーに与えた絶大なインパクト
笑顔の奥に曇った心を見てとれた。日米野球MVPは、日本選手24年ぶりの栄誉だ。しかし、柳田悠岐はただただ戸惑うばかりだった。「僕じゃないと思っていたので申し訳ない。恥ずかしい」
表彰式が終わると、賞品の車に乗り込んでクラクションを鳴らしてみせた。「プップー」。球場には似合わない甲高い音が響くと侍ジャパンの仲間たちは大爆笑だ。いかにも天真爛漫な柳田らしいパフォーマンス。だが、それは困惑と照れ臭さをごまかすためだった。

猛打賞を2回記録するなど活躍して日米野球MVPを獲得。賞品の車に乗り込み、周囲に手を振った(写真=高原由佳)
短期決戦のMVPは数字より印象である。柳田の受賞は文句なしだ。全5試合(公式戦)に先発出場し、初戦からの安打数は0、3、0、3、0と安定感を欠いた。だが、第2戦は2長打を含む3本がすべてタイムリーで4打点の大活躍。第4戦では
ソフトバンクでも経験のない二番に起用されたが、3方向に打ち分けた。
その爆発力と技術の高さはメジャー・リーガーたちにも絶大なインパクトを与えた。MLB通算238本塁打を放ち、今季ナ・リーグの首位打者にも輝いたジャスティン・モーノー(ロッキーズ)は「アメリカに連れて帰りたい」と称賛。親善試合などを含めると3ホーマーを放ったエバン・ロンゴリア(レイズ)は沖縄で行われた会見で「この日米野球で坂本(勇人=
巨人)が一番好きになった選手」と語っていたが、あるテレビ局関係者は「会見に同席していたからリップサービスもあったのでは。つい前日には柳田の名前を挙げていたからね」と教えてくれた。
岩隈久志(マリナーズ)も「日本にいたときには対戦がなかったが、あの思いっ切りの良さとスイングスピードは素晴らしい」と感心するばかりだった。
打席に立てば「全打席フルスイング」がモットーだ。それに誰よりも惚れ込んだのがソフトバンクの
王貞治球団会長。2010年秋のドラフト会議で2位指名された柳田だが、実は別の選手が指名される予定だった。それに声を上げたのが王会長。「(指名リストの中で)誰が一番飛ばすんだ?」と尋ねるとスカウトたちは「柳田です」と即答した。寸前のところで指名が切り替えられたのだった。
王貞治会長も驚愕の飛距離
遠くに飛ばす才能はプロ1年目から目を見張るものがあった。二軍戦だが、京丹後の球場でバックスクリーンをライナーで越える一発を放っている。「弾丸ライナーでどこまでも飛んでいく。それが理想の打球です。あれは僕の中で『プロイチ』ですね」
プロ入団したてのころは強じんな上半身ばかりに頼るスイングをしていたが、徐々に体全体を上手に使えるようになってきた。確実性が上がり、4年目の今季に大きく開花。シーズンでは全144試合に出場を果たして、打率.317(リーグ3位)、15本塁打、70打点、33盗塁(リーグ2位)と見事な成績を残した。
7月3日の
ロッテ戦では、広いヤフオクドームのバックスクリーンすぐ右の上段まで届く一撃を放った。「あれはコトイチ(今年一番)」と自画自賛観戦していた王会長も「あそこまで飛ばしたヤツは、ほかに見たことない」と、世界のホームラン王をも大興奮させた。また、初出場したオールスターでも第2戦のMVPを獲得し、先日はベストナインとゴールデングラブ賞受賞の報も届いた。
だが、柳田は言う。「自分なんてまだショボいっす」
もはや口癖レベルで柳田から聞かれる言葉だ。「場違いだなと思いました。ヤバい。自分はまだショボいので。一生の宝物です(笑)」(ゴールデングラブ賞について)「実感はありません。素晴らしい選手ばかりなのに自分を選んでもらって光栄です」(ベストナインについて)
1988年生まれの26歳。
田中将大(
ヤンキース)をはじめ
前田健太(
広島)、坂本ら球界の中心となる世代だが、世間一般的には同年代の若者は「さとり世代」などと言われ、とかく、自分と取り巻く現実を客観視して大きなことを言いたがらないとされる。スターに上り詰めながらも、何か世間ズレしていない。それは柳田の魅力の一つでもあるのだ。
それでも、最近は頼もしくなってきた。「今年良かったからといって来年も良い成績を残せるわけではない。一からの勝負です。まずはレギュラーをしっかり獲れるように」
3年やって一人前といわれる世界。地位は人を成長させる。
今や、柳田は「空振りでもゼニがとれる」貴重なスターである。時代は違うが、長嶋茂雄を彷彿とさせるスケールの大きさと華がある。
小久保ジャパンが目指す3年後のWBCのころは28歳。野球選手として絶頂期と言っていい年頃だ。「大学生のころは、バリー・ボンズにたとえられたこともあるんですよ」「日本のボンズ」が世界を驚かす。

走攻守にスピード感あふれるプレーを披露。その姿にメジャー・リーガーも感嘆した
PROFILE やなぎた・ゆうき●1988年10月9日生まれ。広島県出身。187��95�圈1ε蟶限如9�島商高から広島経大を経て11年ドラフト2位でソフトバンクに入団。1年目のオフ、プエルトリコのウインター・リーグで経験を積み、12年は一軍で68試合に出場。昨季は右肩痛などの影響で一軍を離れる時期もあったが104試合に出場して自己最高の成績を残した。今季は144試合すべてにスタメン出場。