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野球浪漫2014

上本達之[西武・捕手]

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 若い力の台頭があれば、自ずと出場機会を失う選手もいる。それがプロの世界なのだろう。それでも、たとえグラウンドに立つことはなくとも、必要とされる場面で役割を全うするのもまたプロフェッショナルだ。ベテランと呼ばれる立場になったからこそ、見えること、できることがある。
文=上地安理[共同通信社]
写真=井田新輔、BBM




 プロ野球は各チーム25人で戦う。出場選手登録された28人のうち、ベンチ入りが可能な選手の数だ。パ・リーグの場合、控えの野手は6、7人ほど。代打、代走、守備固め……。途中出場の選手の働きが勝敗を分けることは珍しくない。時に彼らはグラウンドに立つことなくチームを支える。西武上本達之もそんな一人だ。いつ巡ってくるか分からない出場機会に備え、出番がなくても勝利のために果たせる役割を考え続ける。

 8月19日のソフトバンク戦(ヤフオクドーム)。先発投手の菊池雄星は本来の球威を欠き、1回にいきなり2点を失った。直後の味方の攻撃中、ベンチスタートの上本は、ファウルグラウンドで菊池とキャッチボールをしていた新人捕手の森友哉に代わり、左腕の相手を買って出た。「(菊池の)右脚を上げる力が弱いなと思ったんです。それを指摘しました」。その後ベンチに戻ると、23歳の菊池に真剣な表情でアドバイスを送った。

 尻上がりに調子を上げた菊池は、2回以降得点を許さず5回を投げきった。さらに上本は9回からマスクをかぶると、強力打線を相手に延長12回までの4イニングを1安打、無得点に抑える好リードを見せた。何とかこの試合を引き分けに持ち込み、「かなり難しいことだと思うんですよ。できてうれしかったです」とニヤリと笑った。

意識の変化


 12年目を迎えた今シーズン、伊原春樹監督が11年ぶりに西武の指揮を執ることになった。上本が入団したときの監督である。復帰した指揮官はベンチ入りさせる捕手を一般的な3人ではなく、2人にすることを決めた。開幕前にこの方針が示されたことで、上本の意識に大きな変化が生まれた。

「去年くらいは銀仁朗(炭谷)を抜いてやろうと思っていました。でも・・・

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