8年ぶりの日本球界復帰も、巨人加入1年目は一軍未登板に終わった。度重なる故障も、球団は戦力として来季の契約を更新。日米通算170勝右腕は、2020年の復活と恩返しを誓う。 文=福島定一(スポーツライター) 写真=BBM 第3の野球人
すっかり肌寒くなってきた川崎市のジャイアンツ球場。日米通算170勝右腕の姿は、変わらずそこにある。今できることは
「歩くことと、軽めのトレーニングだけですね」。手術を受けた患部への影響から汗をかくことを禁じられている。激しい運動も制限。秋晴れのある日。黙々と外野フェンス沿いを歩いていた。
今季から巨人に加入した
岩隈久志だ。チームが6年ぶりの日本シリーズに向け練習を再開した10月15日、岩隈は都内の病院で手術を受けた。肩やヒジといった外科的なものではなく、『鼠径(そけい)ヘルニア』という内科的なもの。腹膜や腸などの筋膜が、薄くなっている太もも付け根付近から腹腔外に飛び出すことで、世間では脱腸のイメージが強い。最低でも一カ月は激しい運動を禁じられている。
今季は一軍未登板に終わったが、来季も契約延長が決まった。となれば、より万全な状態で来シーズンを迎えるためと、手術に踏み切った。
「前にもやったことがあるからね」と過去にも同様の手術を受けたことがあり、不安もなかった。年内にはキャッチボールも再開予定。球団のトレーナーと相談をしながら、徐々に運動の強度を上げていく。
岩隈が復活登板を期する来季、チームには大きな変化が起きている。今季限りで
阿部慎之助が現役を引退し、二軍監督に就任した。阿部の指揮官就任に合わせるように、二、三軍の首脳陣には阿部の現役時代の戦友である
實松一成(今季は
日本ハム二軍育成コーチ兼選手)や
加藤健(BCL/新潟球団社長補佐兼総合コーチ)、
山口鉄也(アカデミーコーチ)、さらには
二岡智宏(BCL/富山監督)も戻った。一軍にも前
ヤクルトの
石井琢朗を野手総合コーチを迎え、空位だったヘッドには
元木大介(内野守備兼打撃コーチ)が座った。新体制での始動となった11月1日には一〜三軍の全関係者がジャイアンツ球場に集まり、11時11分11秒に始動した。
練習前のミーティングを終えると、スーツ姿の新任コーチらとともに岩隈は輪を離れ、ウォーキングを開始した。通常メニューに汗を流す仲間たちを横目に、黙々とリハビリメニューをこなしていく。約30分後には室内のトレーニングルームへ。帰路に就く際には、まだ若手の練習の最中だった。
「焦りがないことはないですよね……。早く動きたいですよ」。いつもとは違う歯切れの悪い言葉から、体を動かすことができないことへのストレスが感じ取れた。
昨年12月6日。日本球界の話題を一気にさらうニュースが流れた。「巨人が前マリナーズの岩隈を獲得」。2011年の
楽天以来となる8年ぶりの日本球界復帰。同じく獲得に向けた調査をしていた古巣の楽天ではなく、巨人だったこともあり、その反響は非常に大きなものだった。直前まで楽天とも水面下では交渉を行っていたが、最後は条件面などで折り合いがつかなかったようだ。一方で、巨人には岩隈獲得に向けた最強の武器があった。09年の第2回WBCで監督と選手の間柄だった
原辰徳監督からの・・・
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